(18)『百舌の叫ぶ夜』 - 「長門有希の100冊」を読む
「長門有希の100冊」No.96
『百舌の叫ぶ夜』
作者:逢坂剛

◎感想・評
まず最初に、3つのショートストーリーが提示される。「百舌」と称される人物が、筧俊三の暗殺を狙っていたところ、その筧が轟音と共に吹き飛ばされるシーン。筧の始末に成功した新谷(しんがい)和彦が、組織の者によって崖から突き落とされ、自身も始末されるシーン。拳銃で頭部を吹き飛ばされる東洋人のビデオ映像を見、涙を流す男のシーン。
初っ端から、数多くの謎を提示して、物語は始まる。些細な謎のいくつかは、物語を読み進めるうちに予想が付く。しかし、些細な謎を読み解けたことに満足して、核心を衝く謎そのものに気付かない。「百舌」が何者なのか? という疑問に引っ張られすぎて、もう一つの大きな仕掛けに気付かず、してやられた。まんまとしてやられたのに、心地良い。
本書は謎解き部分だけでなく、相手から情報を引き出すための駆け引き描写が魅力的。相手に心理を悟られまいと、何とかボロを出さないよう取り繕う側。相手から情報を引き出すため、挑発し、繕いのほころびを見破ろうとする側。全編に渡るスリル溢れる展開に、この心理戦が加わることで、張りつめたサスペンスを一層引き立たせている。
本書は全編シリアスなのだが、脇役の一人・津城俊輔の登場の仕方がギャグっぽくて面白い。意表を衝くための演出なんだろうが、二回ある“登場シーン”がいずれも(ジャーンジャーン)という伏兵の効果音が聞こえてきそうで吹き出しそうになる。ホント、いい出オチキャラだ。
◎『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズへの影響
・相手の怒らせ方が上手い
心理戦で「相手を怒らせる」行為は、常套手段の一つである。怒りによって、体裁を取り繕うよりも本心が前に出てしまい、ボロを出しやすくなる上、思考力が低下してしまう。本書の登場人物のうち何人かは、挑発の仕方が非常に上手い。
ふと、そういえばハルヒシリーズにも一人、トークで相手を怒らせるのが上手いのがいたっけ、と。言わずもがな、キョンに対する古泉一樹である。古泉がキョンをいらだたせる話し方をしているのは、キョンの本心を前面に引き出すのが狙いか。
・シャッフル構成
本書は途中、時系列順を無視して、一部の章が何の説明もなく過去に遡る。アニメのハルヒほどあからさまでないせいか、気付かずに読み進めてしまうことがあり、若干の混乱を来す。もっとも、受け手に混乱を与えることこそが、シャッフルの狙いなのだが。
◎他
作者の逢坂剛は『カディスの赤い星』で直木賞作家となっている。なので個人的にスペインをイメージしていたのだが、本書は全く関係なし。「公安警察シリーズ」の一編。
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関連アーカイブ
・(17)『夢の樹が接げたなら』
・(16)『イメージシンボル事典』
・(15)『トンデモ本の世界』
・(14)『ゲーデルの哲学 不完全性定理と神の存在論』
・(13)『金なら返せん! 地の巻』
・(12)『金なら返せん! 天の巻』
・(11)『時間衝突』
・(10)『吸血鬼伝承「生ける死体」の民俗学』
・(9)『有限と微小のパン』
・(8)『昭和歌謡大全集』
・(7)『夏への扉』
・(6)『パスカルの鼻は長かった』
・(5)『猫たちの聖夜』
・(4)『バブリング創世記』
・(3)『海がきこえる』
・(2)『たったひとつの冴えたやりかた』
・(1)『復活祭のためのレクイエム』
関連ページ
・長門有希の100冊
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