2007年04月25日

(18)『百舌の叫ぶ夜』 - 「長門有希の100冊」を読む

「長門有希の100冊」No.96
 『百舌の叫ぶ夜』
 作者:逢坂剛



◎感想・評
 まず最初に、3つのショートストーリーが提示される。「百舌」と称される人物が、筧俊三の暗殺を狙っていたところ、その筧が轟音と共に吹き飛ばされるシーン。筧の始末に成功した新谷(しんがい)和彦が、組織の者によって崖から突き落とされ、自身も始末されるシーン。拳銃で頭部を吹き飛ばされる東洋人のビデオ映像を見、涙を流す男のシーン。
 初っ端から、数多くの謎を提示して、物語は始まる。些細な謎のいくつかは、物語を読み進めるうちに予想が付く。しかし、些細な謎を読み解けたことに満足して、核心を衝く謎そのものに気付かない。「百舌」が何者なのか? という疑問に引っ張られすぎて、もう一つの大きな仕掛けに気付かず、してやられた。まんまとしてやられたのに、心地良い。

 本書は謎解き部分だけでなく、相手から情報を引き出すための駆け引き描写が魅力的。相手に心理を悟られまいと、何とかボロを出さないよう取り繕う側。相手から情報を引き出すため、挑発し、繕いのほころびを見破ろうとする側。全編に渡るスリル溢れる展開に、この心理戦が加わることで、張りつめたサスペンスを一層引き立たせている。

 本書は全編シリアスなのだが、脇役の一人・津城俊輔の登場の仕方がギャグっぽくて面白い。意表を衝くための演出なんだろうが、二回ある“登場シーン”がいずれも(ジャーンジャーン)という伏兵の効果音が聞こえてきそうで吹き出しそうになる。ホント、いい出オチキャラだ。


◎『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズへの影響
・相手の怒らせ方が上手い
 心理戦で「相手を怒らせる」行為は、常套手段の一つである。怒りによって、体裁を取り繕うよりも本心が前に出てしまい、ボロを出しやすくなる上、思考力が低下してしまう。本書の登場人物のうち何人かは、挑発の仕方が非常に上手い。
 ふと、そういえばハルヒシリーズにも一人、トークで相手を怒らせるのが上手いのがいたっけ、と。言わずもがな、キョンに対する古泉一樹である。古泉がキョンをいらだたせる話し方をしているのは、キョンの本心を前面に引き出すのが狙いか。

・シャッフル構成
 本書は途中、時系列順を無視して、一部の章が何の説明もなく過去に遡る。アニメのハルヒほどあからさまでないせいか、気付かずに読み進めてしまうことがあり、若干の混乱を来す。もっとも、受け手に混乱を与えることこそが、シャッフルの狙いなのだが。


◎他
 作者の逢坂剛は『カディスの赤い星』で直木賞作家となっている。なので個人的にスペインをイメージしていたのだが、本書は全く関係なし。「公安警察シリーズ」の一編。


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関連アーカイブ
(17)『夢の樹が接げたなら』
(16)『イメージシンボル事典』
(15)『トンデモ本の世界』
(14)『ゲーデルの哲学 不完全性定理と神の存在論』
(13)『金なら返せん! 地の巻』
(12)『金なら返せん! 天の巻』
(11)『時間衝突』
(10)『吸血鬼伝承「生ける死体」の民俗学』
(9)『有限と微小のパン』
(8)『昭和歌謡大全集』
(7)『夏への扉』
(6)『パスカルの鼻は長かった』
(5)『猫たちの聖夜』
(4)『バブリング創世記』
(3)『海がきこえる』
(2)『たったひとつの冴えたやりかた』
(1)『復活祭のためのレクイエム』

関連ページ
長門有希の100冊

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百舌の叫ぶ夜
百舌の叫ぶ夜
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逢坂 剛
集英社 (1986/02)
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おすすめ度の平均: 5.0
5 すごい…
3 巧みに構成された、てんこ盛りな話。
4 騙りの名作


百舌の叫ぶ夜
百舌の叫ぶ夜
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逢坂 剛
集英社 (1990/07)
売り上げランキング: 65285
おすすめ度の平均: 5.0
5 すごい…
3 巧みに構成された、てんこ盛りな話。
4 騙りの名作


2007年04月21日

(17)『夢の樹が接げたなら』 - 「長門有希の100冊」を読む

「長門有希の100冊」No.75
 『夢の樹が接げたなら』
 作者:森岡浩之



一部、本書の根幹に関わるネタバレが含まれています。該当箇所は矢印で囲み、背景色と同じ色で記しています。

◎感想・評
 「言葉」は、人類最大の創作物の一つと言える。文明が発達した現代においても、人類が最も頻繁に使用するコミュニケーションツール。「言葉」が文明の進歩に大きく貢献したことは、疑いようがない。他方、用いる言語の違いにより、コミュニケーションに制約をもたらし、人種の隔絶を発生させることもまた事実。

 本書は「言葉」をテーマにした短編SFを、いくつか収録している。中でも表題作『夢の樹が接げたなら』は、(→)ある一つの人工言語を操れるか否かにより、進化できる人類とそうでない者の間に差が生じる問題を描いた。(←)
 (→)言語は学習できるものであるが、本書に登場する人工言語「ユメキ」は適合性を要求され、学習可能な者とそうでない者という差異を生み出す。ユメキは元々、先天性言語機能不全を治療するために創られた人工言語であった。この言語を健常者に移植できれば、普通の言語を操っている人間が長い思惟の果てに辿り着ける結論に、直観的に到達できてしまう。正に天才を生み出す言語であり、この言語の導入により、人類は確実に進化する。だが、適合者でなければユメキを習得することができない。進化できる者とそうでない者が、人工言語の習得可・不可によって生じてしまう。異言語を操る民族紛争ではおさまらないレベルの対立が予想され、非常に空恐ろしい。主人公が最後につぶやく「すべての人に夢の樹が接げたなら」が重く響く。(←)読む前はタイトルの意味がよく分からなかったが、読んだ後、これほど的確なタイトルは無いなと感心。
 思索に用いる言語により、人類は飛躍的に進化する可能性を秘めているのでは。なんてこと、今まで考えも付かなかった。


◎『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズへの影響
・思考に用いるツール
 情報統合思念体は、有機生命体と直接コンタクトを取れない。情報統合思念体としては、有機生命体の用いる「言葉」という不便なツールなど、用いていないからである。
 (→)本書でも、ユメキを使えるようになった者は、日本語などという不便なツールなど使っていられなくなり、結果として日本語使用者とのコンタクトを取らなくなる。(←)
 「言葉」の使用・不使用の差はあれど、高位の存在の思考手段は、我々が操る言語より優れたツールを用いている。


◎他
 本作は『星界の紋章』『星界の戦旗』『星界の断章』という星界シリーズで著名なSF作家・森岡浩之氏のデビュー作に位置づけられている。同シリーズには体系的な人工言語アーヴ語があり、氏の人工言語に対する関心の深さが伺える。

 本書に収録されている短編の中で、私が特に気に入ったのは『スパイス』と『個人的な理想郷』。いずれも、言葉がテーマではない短編ではあるが。
 『スパイス』は、一方の主人公を評した言葉「やみくもに活動しているようで、あとで振り返ると、そのばらばらの行動は大きな目的を達成するための布石だったことが分かる」が、そのまま本作にも当てはまる流れで、結果に至るまでの過程を楽しめる。
 『個人的な理想郷』は、受動と能動の差はあるが、ネットの巡回行為のように思える。自分が興味ある情報しか取得しなくなることで、自分の中での“世界”を小さくしてしまうことへの警鐘のように思えてしまう。

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関連アーカイブ
(16)『イメージシンボル事典』
(15)『トンデモ本の世界』
(14)『ゲーデルの哲学 不完全性定理と神の存在論』
(13)『金なら返せん! 地の巻』
(12)『金なら返せん! 天の巻』
(11)『時間衝突』
(10)『吸血鬼伝承「生ける死体」の民俗学』
(9)『有限と微小のパン』
(8)『昭和歌謡大全集』
(7)『夏への扉』
(6)『パスカルの鼻は長かった』
(5)『猫たちの聖夜』
(4)『バブリング創世記』
(3)『海がきこえる』
(2)『たったひとつの冴えたやりかた』
(1)『復活祭のためのレクイエム』

関連ページ
長門有希の100冊

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夢の樹が接げたなら
夢の樹が接げたなら
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森岡 浩之
早川書房 (1999/03)
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おすすめ度の平均: 5.0
5 短編向きの作家ではないかと思われます
5 言語とは何かを問い直す傑作
5 とれもおもしろい


夢の樹が接げたなら
夢の樹が接げたなら
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森岡 浩之
早川書房 (2002/03)
売り上げランキング: 44119
おすすめ度の平均: 5.0
5 短編向きの作家ではないかと思われます
5 言語とは何かを問い直す傑作
5 とれもおもしろい



2007年04月19日

(16)『イメージシンボル事典』 - 「長門有希の100冊」を読む

「長門有希の100冊」No.53
 『イメージシンボル事典』
 作者:アト・ド・フリース(訳者代表:山下主一郎)



◎感想・評
 長門有希の100冊の中には、SFやミステリものが多数ある。そのイメージから、本書については当初「変わったタイトルだけれど、ま~、SFかミステリなんだろう」と認識していた。
 ある日。図書館でちょっとした調べものをするため、辞書・事典コーナーを物色した時のこと。「あれ? どっかで見たタイトルの本だな……あ」。まさか本当に事典だったとは。

 本書はオランダの文学博士アト・ド・フリースが編纂した、イメージ及びシンボルの事典である。収集対象は、主としてシェイクスピア作品や聖書などの西欧文学。この本で全て丸分かりとは言い切れないが、西欧文明のシンボリズムを事典形式で700ページ以上に渡って網羅し、項目は相当な数にのぼる。西欧文明のシンボリズムを調べたり、学ぶのに、絶大な信頼が持てる一冊と言える。

 キリスト教絵画のポピュラーな題材に『受胎告知』がある。聖母マリアが主イエス・キリストを処女懐胎した旨を、大天使ガブリエルが告げる場面を描いたものである。この絵画において、ガブリエルがユリの花を携えているケースがある。これには、れっきとした理由がある。ユリの花には「無垢」「貞節」というシンボリズムが内包されており、聖母マリアの純潔性を示しているのである。
 絵画の中に、何気なく小道具が描かれていたとする。これを取るに足りない小道具として意に介さずスルーするのと、「ん、この小道具は……そうか(ニヤリ)」と作者の意図を見抜くのとでは、作品理解に差が生じているのは明らかである。これは絵画に限らず、文学などの創作物全般に当てはまる。シンボリズム知識を身に付けることは、自身の教養を深め、作品理解の助けになると言えるだろう。


◎『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズへの影響
・涼宮ハルヒシリーズのイメージシンボル
 作者・谷川流氏が意図的にイメージを内包させているのか否かは分からないけれど、ハルヒシリーズに関して思い浮かんだ項目をいくつかピックアップし、簡略した本書のイメージシンボル解説を併記してみる。

key 鍵
・謎、秘密、慎重を表す
・見張り、解放を表す
・(禁じられた)知識を表す

door 扉、戸口
・ある状態から次の段階へ導くもの
・外側からの危険を防ぐ遮蔽物、防護物
・秘密を守るもの

Sisyphus シシュポス
・愚かしいことを意味もなく反復する人間の努力を表す

knife ナイフ
・卑劣な、こっそり隠しもつ武器
・生贄
・復讐の武器

dismemberment 分裂
・個人や宇宙が増殖して全なる一に返ること
・無意識のむら気、偏執、固定観念などにとりつかれることはずたずたに引き裂かれること
・精神の分裂、崩壊

canopy 天蓋
・王の権威を表す
・保護を表す
・天界、天国を表す


◎他
 本書の価格は、定価で8000円。「長門有希の100冊」の百冊全部をチェックしたわけではないが、一巻一冊のみの本としては、トップクラスの高価さを誇ると思われる。もっとも700ページ超の事典という時点で高価になるのは致し方ないし、その価格に見合う内容であると私は判定する。
 個人の趣味レベルでは「そんなに使う機会があるか?」という感じで、おいそれと手が出せそうにない。パラパラめくって、目に入った語を頭に入れるだけでも面白いんだが、多分相当無駄な使い方だろう。創作活動を行っている人ならば、手元に置いて活用する機会があるか。購入の前に、図書館で内容をチェックすると良いかと。

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関連アーカイブ
(15)『トンデモ本の世界』
(14)『ゲーデルの哲学 不完全性定理と神の存在論』
(13)『金なら返せん! 地の巻』
(12)『金なら返せん! 天の巻』
(11)『時間衝突』
(10)『吸血鬼伝承「生ける死体」の民俗学』
(9)『有限と微小のパン』
(8)『昭和歌謡大全集』
(7)『夏への扉』
(6)『パスカルの鼻は長かった』
(5)『猫たちの聖夜』
(4)『バブリング創世記』
(3)『海がきこえる』
(2)『たったひとつの冴えたやりかた』
(1)『復活祭のためのレクイエム』

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長門有希の100冊

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イメージ・シンボル事典
アト・ド・フリース 山下 主一郎
大修館書店 (1984/03)
売り上げランキング: 9960
おすすめ度の平均: 4.0
4 ヨーロッパ図像を読み解く糸口に



2007年04月11日

(15)『トンデモ本の世界』 - 「長門有希の100冊」を読む

「長門有希の100冊」No.47
 『トンデモ本の世界』
 作者:と学会



◎感想・評
 本に書かれていることは全て正しい。そんな風に考えていた時期が私にもありました。

 子供の頃、オカルトものがそこそこ好きで、UFO・宇宙人や超常ミステリーの本やら特番やらを好んで見聞した。心の中では「んなもんいるワケねー……でもちょっとはいて欲しい、みたいな~」てな感じで、ノストラダムスの予言なんかも半ば「あったら面白いかな」とか考えていた。1999年、早く来ないかな~てね。だが1999年を迎えるよりも前に、私にコペルニクス的転回をもたらす本との出会いがあった。
 オカルトの類に関する思想が特に修正されずに大学生となった頃、一冊の本を手にした。それが『トンデモ本の世界』であった。本書を初めて読んだ時の衝撃は、今でも忘れない。あんまりマジメに信じていなかったとはいえ、自分が嗜好し、「あったらいいな」という幻想を抱いていたオカルトワールドが、この本を読んだことで見事に粉砕されてしまった。
 とはいえ、これでオカルトを見捨てたかといえば、さにあらず。今では“トンデモ本”と、しっかり認識した上で、トンデモワールドを楽しんでいたりする。

 “トンデモ本”とは、「著者が意図したものとは異なる視点から読んで楽しめるもの」と定義されている。つまり、著者の無知や妄想などにより、常識からかけ離れた本。オカルトや陰謀論などに、トンデモ本が多いのも頷ける。本書では、常人では思いつきもしない内容が記されているトンデモ本や、それらの本を量産しているトンデモ人物が数多く紹介されている。
 第一章では「UFO・宇宙人本」「超科学・疑似科学本」「宗教・オカルト本」「国際謀略・陰謀史観本」「予言書・予言解読本」「偽史・超古代本」「トンデモ小説」「トンデモ実用書」の8ジャンル・36冊のトンデモ本を紹介。個人的に気に入っているのは、ドン・R・スミサナの『古代、アメリカは日本だった!』。「テキサス=敵刺す」「オハイオ=おはよう」など、インディアン語のアメリカの地名などは全て日本語で解読できるという珍説本。
 第二章はトンデモ作家の紹介。川尻徹、清家新一、コンノケンイチ、あすかあきおといったその筋の人に混じって、ドクター中松や大槻義彦といった社会的著名人も。
 第三章はトンデモ世界の紹介。ユダヤ陰謀論の書き方レクチャーが、お手軽で面白い。


◎『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズへの影響
・キョンの超常ネタに対する理解
 『涼宮ハルヒの憂鬱』冒頭、キョンは超常の事象でいっぱいの世界を望んでいたことが伺える。明言はされていないが「一九九九年に何が起こるわけでもなかったしな」と、ノストラダムスの大予言にも期待していたようであるし。
 キョンは学校の勉強ができない割に、やけに雑学知識に詳しい。トンデモ本やUFO特番でヘンな知識を吸収していたのでは。

・陰謀
 涼宮ハルヒの視点では、世界には不思議が満ちあふれているけれど、それらは隠れていると思っている。そして自身がその不思議を知ることは無い。
 現実で陰謀を企む組織など、そうは無い。しかしハルヒワールドには陰謀を企てる組織がいくつか存在する。もっとも、世界征服を企むわけではなく、一少女(および関連人物)を監視・観察するために、真実を隠している組織ばかりだけれど。


◎他
 本書は1995年に出版された単行本と、1999年に改訂版として出された文庫本がある(さらに2006年版の文庫本もある)。この他、と学会によるトンデモ本を紹介した本はたびたび発売されており、おそらく年に一冊以上は出版されているのではなかろうか。
 また、と学会は夏冬のコミケで学会誌の頒布も行っている。このと学会誌を購入することは、私のコミケでの楽しみの一つだったりする。世の中には、数え切れないほどのトンデモ本が存在するようで。


手持ちのと学会本・学会誌

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関連アーカイブ
(14)『ゲーデルの哲学 不完全性定理と神の存在論』
(13)『金なら返せん! 地の巻』
(12)『金なら返せん! 天の巻』
(11)『時間衝突』
(10)『吸血鬼伝承「生ける死体」の民俗学』
(9)『有限と微小のパン』
(8)『昭和歌謡大全集』
(7)『夏への扉』
(6)『パスカルの鼻は長かった』
(5)『猫たちの聖夜』
(4)『バブリング創世記』
(3)『海がきこえる』
(2)『たったひとつの冴えたやりかた』
(1)『復活祭のためのレクイエム』

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長門有希の100冊

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トンデモ本の世界―MONDO TONDEMO
と学会
洋泉社 (1995/05)
売り上げランキング: 468847
おすすめ度の平均: 5.0
5 『トリック』って知ってます?
5 トンデモの歴史を切り開く


トンデモ本の世界
トンデモ本の世界
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と学会
宝島社 (1999/01)
売り上げランキング: 575559
おすすめ度の平均: 5.0
5 一家に一冊あってもいい
5 笑いという特効薬


トンデモ本の世界
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と学会
洋泉社 (2006/05)
売り上げランキング: 180497


2007年04月04日

(14)『ゲーデルの哲学 不完全性定理と神の存在論』 - 「長門有希の100冊」を読む

「長門有希の100冊」No.23
 『ゲーデルの哲学 不完全性定理と神の存在論』
 作者:高橋昌一郎



◎感想・評
 不完全性定理。
「システムSが正常であるとき、Sは不完全である」
「システムSが正常であるとき、Sは自己の無矛盾性を証明できない」

 アインシュタインの名を知っている者は、世界中に沢山いるだろう。一方クルト・ゲーデルの名を知っている者は、アインシュタインと比べて圧倒的に少ないであろう。「「三段論法」を確立したアリストテレスに比肩する論理学者」この紹介ですら過小であると評価されている「不完全性定理」の証明者にしては、いささか寂しいものがある。相対性理論を生み出したアインシュタインと深い交流を持ち、揃って20世紀における最大級の業績を残した両名。しかし両者の知名度には、雲泥の差がある。陽のアインシュタイン、陰のゲーデル。なぜゲーデルだけが陰になってしまったのか、本書に描かれたゲーデルの来歴を読むことで知ることができる。

 本書は、有史に残る学者ゲーデルの名や「不完全性定理」すら知らない、論理学・数学・哲学知識を持ち合わせていない人を対象としている入門書である。
 私自身、ひいき目に見ても、その手の知識に関しては大した持ち合わせがない。本書を一通り読み終えての率直な感想を一言で述べると「これで入門書なのかぁ」である。とは言ったものの「全く理解できなかった」というわけでも無い。本書は、理解するのが難しい話ばかりではなく、入門者でも取っつき易いよう、ゲーデルのエピソードや、興味を持てるパズルを織り交ぜて構成されている。入門者の挫折原因になりやすい、理解するのが難しい話が延々続くようなことはなく、一通り読んでみる気にはなる。
 読み方としては、自分の理解できる箇所をじっくり読み、難しい・理解できない箇所は後回し。何度か読み返すことで理解を深め、理解できる箇所を増やしていくと良いかなと。

 本書は5章立てである。以下、各章について。

 1章は、不完全性定理をイメージとして理解する。アナロジー(既知の概念を手がかりにして類似点を見出し、新たな概念の意味を類推する手法)とパズルを用いて話が進む。ここで提示されるパズルは「頭の体操」的なものが多く、単にパズルを解くだけでも楽しい。パズルを解くうち、おぼろげながらも不完全性定理がどんなものかイメージできるようになる。

 2章は、ウィーン時代のゲーデルと、不完全性定理確立時の反響。不完全性定理がどのようにして成ったかを、ゲーデルの生い立ちから説明。ゲーデル本人どころか、ゲーデルの父・母・兄の人となりまで記述されていることにたまげた。家族に歴史的偉人がいると、素行をこうやって世界に広められてしまうんだなあ。あとこの章、難問クイズで耳にするような学者が多く出てくるので、「おっ、この人は難問クイズでよく聞くあの人じゃん」という変な楽しみ方ができた。

 3章は、不完全性定理の哲学的帰結。この章から、難易度大幅アップ。内容はギブス公演での抄訳や、数学的実在論の分析。合間に挟まれるゲーデルのエピソード話が無かったら、多分この辺で挫折していたと思う。

 4章は、「神の存在論的証明」。晩年のゲーデルと、ゲーデルの遺稿の解説。「神」は存在するのか、それすらも論理で証明しようとする。その証明によると、唯一の神が存在するそうで。

 5章は、不完全性定理と理性の限界。人間の認識論、人間機械論論争にチューリングマシン、グリムの神の非存在論について。


◎『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズへの影響
・古泉一樹の哲学
 古泉の思考は、ゲーデルの影響が大きいんだなあと、つくづく思わされる。それと「笹の葉ラプソディ」で長門有希が発した不完全性定理を意味するセリフをきちんと理解し、それをキョンに対して分かり易く説明しようとしている点も。
 普通の高校生(キョン)が、日常レベルでこの手の話を聞かされていたら、ウザくなるのも分かる。


◎他
 『吸血鬼伝承』でも思ったけれど、研究書は「理解すること」が大事なだけに、先に読み進めたけれど意味が分からず、戻ってもう一回読み返すことが多かった。こういう本は手元に置いて、気が向いた時にパラパラめくって新たな発見をする。そういう読み方ができたらいいのかなと。

 本書を刊行している「講談社現代新書」は2004年にカバーデザインが一新され、中央に四角形が描かれた表紙デザインとなっている。本書は1998年に発表された本であるため、装丁は2種類ある。

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関連アーカイブ
(13)『金なら返せん! 地の巻』
(12)『金なら返せん! 天の巻』
(11)『時間衝突』
(10)『吸血鬼伝承「生ける死体」の民俗学』
(9)『有限と微小のパン』
(8)『昭和歌謡大全集』
(7)『夏への扉』
(6)『パスカルの鼻は長かった』
(5)『猫たちの聖夜』
(4)『バブリング創世記』
(3)『海がきこえる』
(2)『たったひとつの冴えたやりかた』
(1)『復活祭のためのレクイエム』

関連ページ
長門有希の100冊

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ゲーデルの哲学―不完全性定理と神の存在論
高橋 昌一郎
講談社 (1999/08)
売り上げランキング: 24408
おすすめ度の平均: 4.5
5 世界一の天才のクルト・ゲーデル
4 副題の後半に注目
4 パラドクスは超越への扉



2007年03月15日

(13)『金なら返せん! 地の巻』 - 「長門有希の100冊」を読む

「長門有希の100冊」No.78
 『金なら返せん!』(第2巻『金なら返せん! 地の巻』)
 作者:大川豊



◎感想・評
 先日紹介した『金なら返せん! 天の巻』に続く第2巻。
 まず第1章は、前巻『天の巻』が発売された後の話。初版6万部という、この手の本としては破格の部数を印刷。(本来は5千部が妥当だが、大川豊本人が「売れ残ったら自分も印刷代を持つ」と豪語したため。)ぴあ編集部側は印刷しすぎを危惧するも、フタを開ければ売れる売れる。大川豊の懐には印税300万円が。そう思ったのも束の間、倉庫には返本の山が4800冊。在庫となってしまった分の経費を考慮すると、125万円は持って行かれるかも....とまあ、リアルな数字を余すところ無く公開しているスタンスは全く変わっていない。これだけでも、本を売ること、本を書く行為だけで生活することって大変だなと思わされる。

 大川豊が何の気無しに記したものと思われるが、90年代前半から、今の時代になって実現しているネタがいくつかあることに気を引かれた。
 例えば、
「歴史的建造物として原爆ドームが破壊されたことの象徴として残る。」
 →原爆ドームは現在、“負の遺産”として世界遺産に指定されている。
「アニメ人形のストリップとか、キャバクラみたいなのや、セクシーなセーラームーンとかがあるとはやるのではないか」
 →ストリップとは異なるが、“キャストオフ”できる美少女フィギュアはわんさか出てる。また人形ではないものの、メイド喫茶やコスプレ喫茶はこれに近いか。
なお、これをもって、大川豊には先見の明がある、なんてことは決して思わない。理由は簡単、先見の明が無かった記述の方が、はるかに多いから。発想することは大事だけれど、それが有意義なものかは別だし。

 以下、気になったネタのピックアップ。
 マハーポーシャ(オウム真理教が経営していた、パソコン販売がメインの会社)を持ち上げているコラムがあって驚愕。まだ地下鉄サリン事件を起こす前の段階で、マハーポーシャを持ち上げていたとは。まぁこの頃って、麻原彰晃が『とんねるずの生でダラダラいかせて!!』に出演していたからのう。
 前巻の買い取り屋に続き、本書では本物の夜逃げ屋との会話が。どこまでホントの話か確かめる術など無いが、買い取り屋の時と同様、その内容は真に迫っている。まぁ現実の夜逃げ屋は、『夜逃げ屋本舗』に描かれた夜逃げ屋みたいな甘いモノではないということか。
 SM界には大川興業のファンが多い。理由として、「学生服には支配と服従、両方の意味があるから」だそうな。そういえば大川興業には女子高生ファンも多かったし、そんなに的外れな分析では無さそう。
 取り立てる側として、電気代の集金人の話。ヤクザの事務所が電気代などを払わないため、ガス、水道と共に“三本の矢”となって取り立てに行った、という話の筋書きが出来過ぎだけれど面白い。これ話の流れが『さるかに合戦』(ただしサルに殺される母ガニはいないけれど)っぽくて、これで一本作品が作れるんじゃないか。そんな風に思っていたら、本書の終盤、『金なら返せん!』のビデオ化に際し、この話もネタとして考慮されていた。「これは作品化できるネタだ」という点で筆者と波長が合ったことが、ちょっと嬉しい。と同時に、『金なら返せん!』って、ビデオ化されていたのかと。
 ゆうむはじめ氏との対談。ゆうむ氏は当時の謎本ブームに便乗し、『サザエさんの秘密』(名義は世田谷サザエさん研究会)などの謎本を多数上梓し、一億五千万円の印税収入を得たという。(ただし税金で七千万円くらい持って行かれた模様。)当時謎本ブームで、謎本が数十万部売れていたのは知っていたけれど、印税って、そんな莫大だったのか。ちらっと『涼宮ハルヒの秘密』とか書いたら売れるかな~と思ったが、ブームが発生したあの時代で、『サザエさん』という日本全国民が市場ターゲットになる作品だったからこそ売れたんだろうな。そういえば、ブックオフの105円コーナーでそこそこ見かける『新世紀エヴァンゲリオン』の解析本やら分析本やらって、どれだけ売れたんだろう。
 独立国家“ゆたか”を作る、という話の中で、架空の独立国家の流れで吉里吉里国が出てきた。そういえば『吉里吉里人』も「長門有希の100冊」にあるなあと、妙な接点を感じた。
 『ぴあ』内メジャーリーグ“Pリーグ”を作る、という話の中で、各ジャンルのメジャーどころをピックアップしているのだが、「サッカーは浦和レッズをはずす」と、今では信じられないような記述があって、軽い衝撃を受けた。そういえば浦和レッズって、Jリーグ開幕当初は典型的な“お荷物クラブ”だったんだよな。あの時、今の隆盛を極める浦和レッズを、とてもではないが想像できなかったな。それとは逆に、ヴェルディの凋落ぶりも。


◎『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズへの影響
◎他
 略。「(12)『金なら返せん! 天の巻』 - 「長門有希の100冊」を読む」を参照。


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関連アーカイブ
(12)『金なら返せん! 天の巻』
(11)『時間衝突』
(10)『吸血鬼伝承「生ける死体」の民俗学』
(9)『有限と微小のパン』
(8)『昭和歌謡大全集』
(7)『夏への扉』
(6)『パスカルの鼻は長かった』
(5)『猫たちの聖夜』
(4)『バブリング創世記』
(3)『海がきこえる』
(2)『たったひとつの冴えたやりかた』
(1)『復活祭のためのレクイエム』

関連ページ
長門有希の100冊

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2007年03月13日

(12)『金なら返せん! 天の巻』 - 「長門有希の100冊」を読む

「長門有希の100冊」No.78
 『金なら返せん!』(第1巻『金なら返せん! 天の巻』)
 作者:大川豊



◎感想・評
 最初に長門有希の100冊のラインナップを目にした時、一つ、異彩を放っているタイトルがあった。厚モノ、SF、ミステリ、おカタい本が並ぶ中、芸人・大川豊の『金なら返せん!』が入っているのは「何で?」と率直な疑問が浮かんだ。百冊の中には、やわらかい本もあるにはあるが、私にはこの『金なら返せん!』が一際飛び抜けた違和感であった。もっとも「何で?」という疑問は、本書を読み終えた後、納得に変わったが。

 本書は雑誌『ぴあ』で連載されていた大川豊の同名コラムを、一冊にまとめたものである。コラム連載当時、毎号というほどではないが、たびたび目を通していた。その頃は「こんなに借金を抱えて、どうやって生活しているんだろう?」くらいの間が抜けた疑問を抱いていたくらい。今思うと、これは感受性に乏しかったなと反省。
 昔は、借金の額ばかり心配していたけれど、もっと大川豊本人のような考え方で、楽しみながら読むべきだった。借金に対して暗くならず、むしろ借金をネタにして笑い飛ばせるくらいの心意気があれば、私にももっとユーモアのセンスが身に付いていたろうに。今後の心の持ちように関して、もっとポジティブになろうと思わせる一冊だった。
 連載を読んでいた頃は気付かなかったけれど、「全額返済まであと○○円」の表示は、『宇宙戦艦ヤマト』の「地球滅亡まであと○○日」のパロディだったのか。これ、借金が減るどころか増えてばかりだったので、パロディだと気付かなかった。

 『ぴあ』で読んでいた頃から十数年が経ち、あらためて本の形でコラムを読み返すと、「これホントかよ~」という借金ネタの豊富さに驚かされる。コラムは総じて筆が上手く、語り口にグイグイ引き込まれる。知らぬ間に江頭2:50の連帯保証人にされていて「借金200万円」って、それは文字通り裁判沙汰では。「怪しい電話の声」に出てくる“買い取り屋”との会話は、うさんくささ半分も、再現が真に迫っていて非常に面白かった。裏社会には、こういう仕事をする人もいるんだなと。
 本書を読んでいると、90年代(特に前半)を懐かしめる名前が多くて、ノスタルジィに浸ってしまう。ざっと適当に単語を拾うだけでも、電波少年、ピロピロ、ジッタリンジン、オルケスタ・デ・ラ・ルス、男同志、MANZAI-C、松本ハウス、ホーキング青山、マーチン・セント・ジェームス、ビヨンド、NHKムスタンやらせ事件、K・Yサンゴ、朝日ジャーナル、ギルガメッシュないと、松坂季実子、磯野家の謎、一杯のかけそば、尾上縫、ブランチ・ダビディアン、ショー・コスギ、花柳幻舟、小和田雅子様の結婚の儀etc. これらを楽しんでいた時代は、もう十数年前の出来事になってしまったのか。本書は90年代の縮図を見るよう。


◎『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズへの影響
・感じるまま、感じることだけをする
 大川豊&大川興業の行動原理が、どうにも涼宮ハルヒ&SOS団のそれとかぶる。
 大層な借金をこしらえてまで公演活動を行う。「自分(達)のやりたいこと」を実現するため、面白おかしい活動をすぐに実行に移す。活動内容は異なるけれど、後先考えずに活動して、自分達はもちろん、周囲を楽しませ、笑わせる点は類似する。中にはその活動に対し、眉をひそめる部類の人達がいる点も。
 もっとも、現実の方はフィクションとは違って、後先考えない行動の結果が“借金”という形で跳ね返ってくるけれど。


◎他
 私が調べた限りでは、この『金なら返せん!』シリーズは、今回紹介した「天の巻」に、続刊となる「地の巻」「人の巻」「ビッグバンの巻 上」「完結編(金メダル)」の5巻が刊行されている。「ビッグバンの巻 下」があるのか、それが「完結編」に当たるのかは分からず。また「天の巻」「地の巻」は幻冬舎アウトロー文庫より文庫化されている。今回私が入手した「天の巻」は文庫の方。続刊分も、機会を得て読み進めたいところ。
 本シリーズは内容的に、教育上よろしくないと判断されるせいか、お国の施設の図書館にはあまり置いていない。なので他の百冊と比べて「借りる」という手段で読むことが難しい。長門有希の100冊完読を目指している方は、購入機会があるうちに入手することを勧める。


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関連アーカイブ
(11)『時間衝突』
(10)『吸血鬼伝承「生ける死体」の民俗学』
(9)『有限と微小のパン』
(8)『昭和歌謡大全集』
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(6)『パスカルの鼻は長かった』
(5)『猫たちの聖夜』
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(2)『たったひとつの冴えたやりかた』
(1)『復活祭のためのレクイエム』

関連ページ
長門有希の100冊

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金なら返せん! 天の巻
金なら返せん! 天の巻
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大川 豊
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おすすめ度の平均: 4.0
4 金は返せたのか?


2007年03月09日

(11)『時間衝突』 - 「長門有希の100冊」を読む

「長門有希の100冊」No.15
 『時間衝突』
 作者:バリントン・J・ベイリー(訳者:大森望)



*若干のネタバレ要素があります。その点、ご注意下さい。


◎感想・評
 『時間衝突』というタイトルから「あぁ、時間移動を行うSFなんだな」というのはまず推測できる。「じゃあ、時間が衝突するってどういうこと?」と小さな疑問を持ちながらページをめくると、時間の流れに関して自分が抱いている概念を、根本から揺るがす内容に驚愕。
 本書の時間概念を完全に理解したわけではないが、自分らとは逆方向からの時間の流れで生きる文明が存在し、数世紀という“近い将来”に、時間線同士が衝突、地球はオシマイ。よくこれほどのアイデアを思いつくものだなと、心底感嘆。

 物語の方は、異星人によって滅ぼされかけるも、タイタン軍が“地球を勝ち取る戦争”に勝利したところから始まる。
 地球の歴史は戦争の歴史でもある。戦争勝利者が行うことは、いつの時代も「歴史の作成」である。もちろん、勝利者にとって都合の良い歴史の。
 “正確な歴史”なんてものは、超越した存在にしか作れないものである。かといって、全く根拠のない歴史を捏造することもできない。特に、異星人の次なる襲来を予測する必要があるだけに、正確な歴史の作成は急務。そのような理由から、タイタン軍は異星人が地球に残した考古の対象となる遺跡の調査を、考古学者ロンド・ヘシュケに任せるあたりが冒頭のくだり。この遺跡が、ずっと昔に撮影された写真の映像の方が、今ある遺跡よりもはるかに古びている、という謎つきで。
 歴史調査の段階で、異星人が所有していたはずの文明が、あさはかな勝利者によって破壊されたくだりを読むに、現実に歴史調査を行う人も、こういう感想を抱くのだろうなと。地球上において、戦勝者が行った略奪・破壊行為により、どれだけの知的文明が永久に失われてきたことか。

 本作はSF的な部分だけでなく、風刺が効いている部分でも優れている。地球を支配しているタイタン軍は、冷戦下における米ソの「悪いとこ取り」をしたような組織。弾圧・思想統制は旧ソ連のそれ。白人種を<真人>、それ以外の人種を<異常亜種>として排除する、徹底した純血主義ぶりは、人種差別の酷いアメリカのよう。こんな組織が遠い未来の地球を支配しているとはケッサクである。しかも、地球母を守るため、息子らがとった行動は、水素爆弾を抱えての未来への特攻。こんなのが支配者になったら地球の未来はお先真っ暗であるが、現実は案外これと近いのではと思い、暗澹たる気分になる。


◎『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズへの影響
・時間(移動)概念
 時間旅行機で未来から過去(or過去から未来)へと移動した者は、過去への干渉ができない。<いま>はある一瞬からある一瞬へと移動している。過去の人間はロボットのように、あらかじめプログラムされた機械のような行動を取る。宇宙は人為的に加えられた変化に無関心であり、どこに<いま>があるか頓着しない。「親殺しのパラドックス」については、たとえ親殺しに成功しても、それでも生きていると。原因と結果は<現在波>の中でのみ生じ、過去を変えることはできない。
 朝比奈みくるが説明した「パラパラマンガの一部に余計な落書きをしても、ストーリーは変わらない」という時間移動概念は、本書の概念に通じる。この理論で行けば、過去の既定事項をみくる自身がやらず、<いま>を生きているキョンにやらせている理由に合点が行く。


・異星人を極度に畏れる地球人
 最終的に勝利することはできたものの、地球人類は異星人によって全滅寸前にまで追いやられた。しかも、いつか再び異星人からの襲撃がやって来る。タイタン軍の面々は、そう信じている。
 ハルヒワールドと本書は異なる世界観を持つ作品であるが、このような背景があったと考えると、朝比奈みくるが長門有希を異常に畏れる一つの理由になるか。


・人知を越えた力を持つ、超越存在
 本書の<斜行存在>は、情報統合思念体とどこかかぶる。
 <斜行存在>は地球の全てを知っており、未知の力を有する、人間から見れば神様みたいな存在である。
 そんな存在の“趣味”は、生命の芽生えた惑星の観察。またリアド・アスカーとの対話に際し、若い女性を作り出したりも。
 ただ異なる点としては、<斜行存在>は有機生命体と直接対話でのコミュニケートを苦もなく行っていることか。


◎他
 ヘシュケは腹が出たオッサンのはずなのだが、私の脳内ではスマートな、特性のないラノベ的主人公に脳内補完されてしまう。ヘシュケに限らず、アスカーやオブロモット、スームンらも同様。もしや知らぬ間に腐女子フィルターが備わってしまったのだろうか。


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関連アーカイブ

(10)『吸血鬼伝承「生ける死体」の民俗学』
(9)『有限と微小のパン』
(8)『昭和歌謡大全集』
(7)『夏への扉』
(6)『パスカルの鼻は長かった』
(5)『猫たちの聖夜』
(4)『バブリング創世記』
(3)『海がきこえる』
(2)『たったひとつの冴えたやりかた』
(1)『復活祭のためのレクイエム』

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長門有希の100冊

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時間衝突
時間衝突
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バリントン・J・ベイリー 大森 望
東京創元社 (1989/12)
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おすすめ度の平均: 3.5
2 再帰問題に間違いはないか?
5 唯一無二の時間論SF
4 交差する時間と世界と


2007年03月03日

(10)『吸血鬼伝承「生ける死体」の民俗学』 - 「長門有希の100冊」を読む

「長門有希の100冊」No.64
 『吸血鬼伝承「生ける死体」の民俗学』
 作者:平賀英一郎



◎感想・評
 「吸血鬼」。その単語からは、色々なイメージが膨らむ。私自身、試しに列挙してみる。

・血を吸う
・ドラキュラ
・美形
・美女を襲う
・化け物
・コウモリに変身
・十字架が弱点
・ニンニクが弱点
・夜行性
・太陽の光を浴びると灰になる
・鋭い牙を持つ
・不老不死
・血の代用品はトマトジュース
etc.

最後のは関係ないような。まぁいいか。以上のように、ざっと考えただけでも思いつくイメージは多数ある。しかし吸血鬼は架空の生物であり、生態研究が行えるものではない。人間の想像によって“吸血鬼”像は少しずつ形作られたものである。その根本的イメージは、商業作品でも文学作品でもなく、民俗学的研究の対象となる、土俗の妖怪が源である。ところが、物語の素材としてこれほどポピュラーな吸血鬼について、発祥である東欧・バルカン地域の民族を包含した研究というものは、驚くほど少ない。本書は、「生ける死体・吸血鬼」を、民俗学的見地から記述した、希少な研究書である。

 本書は5章立てで構成されている。
 まず第1章は、民俗学的研究で心得ておきたい下地について。日本では「吸血鬼」と呼ばれているものの、実のところ「血を吸う行為」が必ずしも“生ける死体”の条件ではないこと。吸血鬼は土葬文化の地域でしか伝えられないこと。発祥当時、死が非常に身近な存在であったこと。吸血鬼の研究を読む前に、最低限知っておきたい知識が詰まっており、吸血鬼のことを意外に知らないことを自覚する。

 第2章は、東欧・バルカン地域における吸血鬼の特徴について。また、吸血鬼事件の事例記録の引用も。現代では荒唐無稽とも思える事件報告ではあるが、当時の人々が吸血鬼を信じ、畏れていたことがよく分かる。
 吸血鬼になりやすい人の特徴についても言及されている。中には「土曜日に生まれた者」など、「え? 何で?」と思うものも。理由について言及していないが、多分、キリスト教文化と関係があるのだろうか。また、やたらと「死後40日」という縛りがあるのも気になる。
 「吸血鬼」の呼び方についての語彙を豊富に紹介している。「ヴェドゴニア」「モーラ」「ストリクス」あたりで「おっ、ニトロプラス」とか思ったり、「エリアーデ」で「おぅ、D.Gray-man」と、ヲタ反応してしまう。

 第2章を踏まえての第3章。各地の吸血鬼伝承を調べた結果、「吸血鬼」を表す語は一定しておらず、意味するところも一定していない。それでも「吸血鬼」の全体像を、この章でまとめている。吸血鬼の性質として、血を吸う行為への言及事例は、意外と多くない。他方、夢魔や魔女について、同等の吸血行為が語られている点が興味深い。また、吸血を行う部位が胸部であることが多い点は、シンボル的な側面を内包していることも分かる。(もし実際に吸血を行うとしたら、その部位は物語における吸血鬼のように、首筋か腕・脚から吸うのが自然である。)こうして本書を読み進めると、今日の吸血鬼像について、後付けによるセンセーショナルなイメージの方が、いかに強いかが分かる。

 第4章は「ヴァンパイア」という単語の語源について。第3章にて、「吸血鬼」を指す名称の系統として、「ヴコドラク vukodlak(人狼)」「ストリゴイ strigoi(魔女)」「モロイ moroi(夢魔)」「ヴァンパイア vampire」の4系統を挙げている。このうち前の3つが他の異能者を表した語を転用した名称であるのに対し、「ヴァンパイア」のみが「吸血鬼」に対する固有の語彙であることに着目。各地の「ヴァンパイア」の語源に関係がありそうな語を記している。この語源を探るためにピックアップされた語彙が驚くほど豊富。単語の語源を探ることって、本当に大変だ。

 最後の第5章では、吸血鬼に関わる世界の歴史について。西欧での吸血鬼伝承や、ペスト禍、魔女狩りなど、社会との関わりについて述べている。社会というものは、いつの時代になっても妄想・空想による産物を生み出すものだ。


◎『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズへの影響
 ハルヒシリーズへの影響よりも、本書は谷川流氏の別作品である『学校を出よう!』シリーズに影響を与えた本であることは明らかかと。『学校を出よう!』の5巻・6巻は、まんま吸血鬼を