2007年04月27日

『マリア様がみてる あなたを探しに』感想

『マリア様がみてる あなたを探しに』感想

注:ネタバレあり


 読了後の率直な感想を一言で表すと「まだスールにならんのか」
 話は前巻『クリスクロス』の続きから。バレンタインカード探しの終盤、瞳子が突然「妹にしてください」と言ってきて、「カード探しの間に一体どんな心境変化が?」という終わり方だったけれど、この急な変心について、この巻では語られず。代わりに、家出騒動などにおける不明瞭な行動について、ようやくつまびらかに。家出騒動は『未来の白地図』ん時だから、6冊前(リアルだと1年3ヶ月前)か。やっと語ってくれたか。

幼い頃、瞳子の両親事故死
→松平家の養子に
→一族内で色々あって出自を知る
→松平病院の跡を継ぐことだけが生き甲斐&跡を継ぐことを公言
→でも祖父はあと3年で引退・病院は手伝いの医者夫婦が継ぐ
→瞳子大ショックで家出

一つの目標のために突き進んでいたら、個人の力ではどうにもならない形で目標を見失う。瞳子って、世間慣れしているようで、意外と視界が狭いなと。まぁでも、こういう状況に陥っちゃうのは、分からないでもない。目標を見失うと、ホント何やって良いのか分からなくなっちゃうからのう。こういう時に欲しいのは、的確なアドバイスはもちろんだが、理屈とか筋とかが通っていなくとも、良い方向へ導いてくれる言葉をかけてくれる人の存在だよな。んで、瞳子にとってその役割は、祐巳が担うと。その辺、次巻に期待か。
 瞳子の母も、縦ロールヘアだそうで。ということは、瞳子が母を真似ているわけか。あのドリルが、血縁の無い母とのつながりを誇示しているものだと思うと、ちょっとホロッときますな。

 平行して、バレンタインデート。物語の主軸の紅薔薇は、さしずめ「福沢祐巳のお悩み相談室(ゲスト・松平瞳子)」といった感じ。

 黄薔薇のバレンタインデートは島津由乃&田沼ちさと。映画館でチャンバラか恋愛か、どちらを見るか迷った末、ホラー映画『血みどろ屋敷の経文』を見る辺り、黄薔薇はホント、体を張った笑いを提供してくれる。
 由乃&有馬菜々。菜々、由乃にバレンタインデートをしたくなかったのかとガッカリさせておいて「私は、いくらでも由乃さまとデートできますもん」。なんという良のろけ…デートと聞いただけで由乃がハッスルしてしまった。この菜々は間違いなく百合。

 白薔薇のバレンタインデートは藤堂志摩子&井川亜実・江守千保。入れ替わりは全然気付かなかったな~。ヒントは提示されていたけれど、ヒントだということに気付かなかった。にしても志摩子は、どの段階で気付いたんだろ。“うっかり買いすぎた食料”なんて描写があるくらいだから、違和感は早いうちからあったのかなと。
 志摩子&二条乃梨子。志摩子が乃梨子の手をそっと握るシーンで、ニヤニヤが止まらない。乃梨子の「籠の中のチョコレートが全部とけてしまいそうだ」という心情描写が、アツアツぶりを遠回しに物語っていて良い。白薔薇派としては、一冊に一度でもこういうシーンがあれば満足してしまうので困りもの。マリみてを買い続けている理由の一つが、シマノリのイチャイチャを読むためってのも過言でないし。


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マリア様がみてる−あなたを探しに
今野 緒雪
集英社 (2007/03/30)
売り上げランキング: 582
おすすめ度の平均: 4.5
5 実は自分自身を探しに
5 犯人はヤス
5 よくできた巻

2007年03月19日

『「へんな会社」のつくり方』書評 - 「株式会社はてな」のつくり方

『「へんな会社」のつくり方』書評
 著者:近藤淳也

 日本でインターネットを楽しんでいる人の中で、「はてな」と全く関わりが無いという方は、非常に少ないだろう。「はてなアンテナ」「はてなブックマーク」「はてなダイアリー」などなど、そのネットサービスは多岐に渡っている。直接利用しているユーザはもちろん、はてなのユーザが作成したページを閲覧している人の総計となると、おそらく日本のネットユーザ全体、とまでは行かなくとも、かなり近い数字になるのではと。そんな日本のネットに深く浸透している「はてな」の社長・近藤淳也氏がCNETブログに連載した記事をまとめ・再構成したのが本書である。

 組織というものは得てして慣習の方を大事にし、「こうした方が効率的なのに」と思うことを、なかなか実行に移せないものである。しかし「はてな」は常に現状に対して疑問を持ち、「こうすればいいのに」と思ったことを実行に移す。本書では「はてな」独特の仕事方法として、「立ったままの会議、および柔軟な参加・不参加の選択」「“あしか”と呼ばれる進行管理システム」「毎朝好きな席に座れるフリーアドレス制」「2人組でプログラムを開発するペアプログラミング」「3日間、特定のプロジェクトのみに集中する開発合宿」などなど、既存の会社ではまず目にしないユニークな仕事方法が数多く紹介されている。
 こうした仕事方法は「面白い仕事方法」として紹介されることが多々あるそうだが、何もユニークさを売り物にするために取り入れているわけではない。「こうした方が効率的な仕事ができる」と思い、実行に移したら仕事が効率的になったからこそ、「はてな」の中に根付いたものである。「失敗した」と思ったらすぐに撤回できる環境もまた大事であり、「はてな」では常に「この方がもっと効率的ではないか」という仕事手法のアイデアが提示され、実行に移されている。
 組織というものは、流動的なものである。だから「これが最善」という仕事手法のアイデアなど無い。常に現状に疑問を持ち、「こうすればより効率的な仕事ができるのでは」というアイデアを生みだし、それを実行に移すことが大事であることを、教えてもらえる一冊。
 また仕事云々とは別に、「はてな」が柔軟なサービスを次々打ち出し、これらが浸透している理由もまた、理解できた。「はてな」というと、個人的には「重くてよくメンテナンスを行っているサービス」という、ちとネガティブなイメージがあったけれど、本書を読むことで「はてな」に対する好感度が大幅にアップした。今後、「はてな」のサービスをより楽しく利用できそう。


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「へんな会社」のつくり方
近藤 淳也
翔泳社 (2006/02/13)
売り上げランキング: 21852
おすすめ度の平均: 4.5
4 ガイドラインの作り方の参考事例
5 発送の転換にもなるビジネス書
4 何にも変っていない

2007年03月11日

『れでぃ×ばと!』書評

『れでぃ×ばと!』(1巻・2巻)書評
 作者:上月司
 イラスト:むにゅう


 執事ブームである。
 ヲタ文化の浸透化が進み、メイド認知が広まったせいか、男版メイドとも言える執事もまた、萌え属性の一つとして、確固たる地位を築きつつある。そんな御時世を反映してか、ラノベでも執事モノの作品が登場。それが今回俎上に乗せる『れでぃ×ばと!』である。

 主人公は日野秋晴。高校生。外見は極悪ヅラ、三縦ピアス、無骨な傷跡、茶髪と、こてこてのヤンキー。でも実はビビリで、意外と家庭的。必要上と、自身の憧れから、一人前の執事となるために白麗陵学院の従育科(従者育成科)に編入。
 編入初日、秋晴は幼なじみの彩京朋美と再会。朋美は、学校では優等生で通っているが、実は腹黒。幼い頃、秋晴に数々のトラウマを植え付けた張本人で、本作でも秋晴を意のままに操る。

 話の基本は、秋晴がトラブルに見舞われるも、雨降って地固まる、な展開。
 第一巻は、第一話~第三話からなり、大体次のような話。

  第一話:秋晴が偶発的事故により、セルニア=伊織=フレイムハートの巨乳を鷲づかみにしたことで、変質者として学園中を逃げ回る話。
  第二話:秋晴が、ドジっ娘メイド・四季鏡早苗の引き起こすトラブルに巻き込まれる話。どう見ても騎乗位。ルームメイトの執事候補生・大地薫にあらぬ誤解をされたりも。
  第三話:ようやく従育科生徒の訓練話。着衣水泳。秋晴がこの学校に来た理由が明かされる。
   セルニアが秋晴に恋慕しているのが丸分かり。朋美はこれを利用することで、学校生活を面白おかしく過ごせそうだとワクワクするが、胸にモヤモヤが残る。

 以上のように三角関係を予感させつつ、第二巻へ。二巻は第四話、第五話、番外編からなる。

 第四話はセルニアがメイン。第一話で少し触れられていた、変質者(盗撮犯)を捕まえる話。捕物帖はさておき、見所としては、秋晴が抵抗するセルニアの自由を奪うように組み伏せ、体で押し潰し、口を押さえつけて「悪いようにしないから静かにしろ」と命令する所。ドリル掘削機かわいいよドリル掘削機。

 第五話は、見た目は小学生の合法ロリキャラ・桜沢みみな(19歳)がメイン。小動物のようなみみなを愛でる話。みみなが秋晴に対して怒って見せ、睨み付けるシーンが特に観察甲斐がある。
 え~、ホントはみみなのお絵描きを手伝う、というか秋晴なりに励ます話。見所は、みみなの「動いてもいいから。あんまり激しくされると困るけど、好きにしていいよ?」ロリかわいいよロリ。

 番外編は2本立て。薫と四季鏡メイン。従育科のテストで、秋晴、薫、四季鏡がチームを組んで料理を作る話。
 四季鏡に生クリームをかきまぜさせる段階で、もう2ページ先の内容が予想でき、期待通りの結果に。白いドロドロした液体まみれになった四季鏡が「ううっ……せっかく綺麗な体になったのにぃ……」。狙いすぎなくらい、適度にエロ妄想をかき立てる描写は、この作品の様式美である。
 薫については、ここまでの描写で読者には分かりきっていた秘密のネタバレ。(以下ネタバレ話→:でも「実は女でした~」ってやるよりも、本当に男で、ショタ要員で良かったような。

 ストーリーの方は、非常に先読みしやすい、分かり易い内容。肩の力を抜いて、気楽に読める。これでもかというくらい典型描写が多数ある中に、執事候補生というパーツを組み込んで、楽しめる話となっている。
 劣情を催させる狙いの描写もまた見所。むにゅう氏の口絵・挿絵イラストが、その効果をアップさせている。

 主要キャラ評
 秋晴:基本イイ人だが、外見で損をするタイプ。どんな災難に見舞われても、「一人前の執事を目指す」という目標が揺るがない点は好印象。本人は災難としか思っていないが、うらやましトラブルが多い。
 朋美:準主人公格なのに、影が薄い。今の段階では、秋晴とくっつく要素は低いこともあり、このまま暗躍型ヒロインとして、裏方を全うして欲しいかも。
 セルニア:頭部に二本の巨大ドリルを備えた、胸もデカいが態度もデカい、ツンデレ金髪ヒロイン。秋晴と主従関係を結びつつ、恋愛関係になって欲しいかなと。まぁ素直に恋愛関係にならないからこそのツンデレなんだけれど。
 四季鏡:セルニアと並ぶ、本作の巨乳ツートップ。ドジっ娘ぶりがウザ過ぎる。カラダだけが取り柄だが、それが最大の武器。このキャラを見ていると『エイケン』を連想する。
 薫:ショタキャラ、と思いきや……。秋晴に冷たいようで、自分のことを見て欲しい、という微妙な内心の吐露が良い。
 みみな:小動物。観察して楽しむ対象。

 本シリーズの3巻は、5月に発売予定。前情報によると、今度もセルニアメインらしい。セルニア寄りの私的には「ずっとセルニアのターン!」は好ましいのだが、一度くらい朋美メインも見てみたいかなと。
 ちなみに↓のアフィ画像を見て分かる通り、本作の表紙は執事モノの内容と関係なく、どういうわけか「ぱんつはいてない」である。書店で買う場合のアドバイスとして一言「気にすんな」


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れでぃ×ばと!
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上月 司
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3 これから面白くなるかも
4 今後に期待大


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4 シリーズとしてはまだ薦められない
5 素晴らしい



2007年03月03日

『生き抜くための数学入門』書評 - 「円周率とは何でしょう?」

『生き抜くための数学入門』(著・新井紀子)書評

「円周率とは何でしょう? まずは「円周率とは、…です」という定義を書いてください」
 最初に、このような問いを出される。はて、円周率はπであり3.1415926…であるが、それは定義の結果であり、定義ではない。では正解はというと、次の通り。
「円周と直径の比の値を、円周率といいます」
 頭を悩ませたのに、答えは意外とシンプル。本書によると、この問題を有名大学1年生、高級官僚、新聞記者にも解いてもらったところ、いずれも正解率が1割に満たなかったという。

 本来、数学(算数)というものは、論理的な考え方によって連綿と構築されてきた学問である。しかしその論理の部分を忘れてしまうと、単に加減乗除の計算をするだけの、実につまらない“学問”と呼ぶのもはばかられるものに陥ってしまう。
 本書は「なぜ、そうなるのか?」を重視した作りになっており、数学の「なぜ?」を会話形式で非常に分かり易く、シンプルに記述している。内容は「マイナスのかけ算」の役割から始まり、「博士の愛した数式(e^(πi) + 1 = 0)」にまで至る。

 個人的に気に入った箇所をいくつかピックアップ。
 最初の円周率の定義について、ガツーンとやられた。タイトルが気になって本書を手に取り、この箇所を読んだことがきっかけで、全部読みたくなったし。
 「0.9999....=1」。これ、高校生くらいの頃は釈然としないものを感じながらも「そういうもんだ」と思いながら機械的に計算していたけれど、本書の解説でもやっぱり釈然としない。でも論理的にはやっぱり「0.9999....=1」であり、「そういうものだったんだ」としぶしぶ納得。
 四角形の定義。4つの直線と4つの角からなる形だっけ? 違ってた。正解は「4本の直線によって囲まれており、内部のどの2点と結んだ線分もその内部に含まれるような図形」。この定義に至るまでの会話解説が分かり易く、「おぉ、なるほど」と膝を打った。
 「○×ゲーム(正式には「Tic Tac Toe」という、#っぽい図のマスに○と×を交互に入れるアレ)」の定義の仕方が面白かった。○×ゲームのルールについては、人間同士なら「あぁ、あれね」レベルで通じるだろうが、コンピュータに1からこのゲームのルールを教えることが、これほど面倒だとは。その結果、単純なはずの○×ゲームについて、えらく長ったらしい定義が約2ページ分書かれていて笑ってしまった。
 テイラー展開のあたり。コンピュータのグラフソフトで「y = sin(x)」のグラフがどのように描画されているかの仕組みについては、目から何かが落ちるくらい、非常に驚いた。学生時代、『Mathematica』を使って描画させていたけれど、あれはこういう風に描画していたのか、と今頃カラクリを知った次第で興奮気味。

 本書を読んだことで、数学の楽しさを久々に感じることができた。でも1ヶ月くらい経ったら、本書で読んだ定義の大半は忘れちゃっていそうだ。とはいえ「なぜ、そうなるのか?」という、疑問を持つこと、論理的に結論を導き出そうとする考え方は、忘れずにいたい。その考え方こそが、人生を送る上でプラスになるものかな、と。

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生き抜くための数学入門
新井 紀子
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2007年02月22日

『ダーリンはアキバ系』 - 私のカレはアキバ系

『ダーリンはアキバ系』(著・里中ミナ)書評


 装丁が『ダーリンは外国人』まんまの漫画なんで、二番煎じものかと思いつつも、タイトルが気になったので手にした次第。奥付を見ると、1年ほど前に出た本だった。そういえば、昔、店頭で目にしたような。
 最初の数ページを見て「この人(=ダーリン)は私か?」と思うくらい、行動・習性が似ていて吹き出した。

・タバコは吸わない
・お酒はつきあい程度
・ギャンブルは一切しない
・(偏った)知識が豊富
・普段は質素
・食玩フィギュアコンプで大喜び
・敬称は○○氏

以降のページも、類似点を挙げるだけで相当な数に。ダーリンの立ち居振る舞いが、どれだけ自分にも当てはまるのか「あるあ....ねーよwww」とかチェックしつつ、時には自虐感を覚えながらも、一項一項を面白おかしく読み進められた。特に、「ドラマ『電車男』ではエルメスより陣釜さんに萌えた」って点で、「うわ、こんなネタまで自分とかぶってる」と、自虐的にが笑い。
 私自身、あんまり秋葉原には足を運ばないので、このダーリンほどオタク分野に精通してはいないなと。本の内容を鵜呑みにすれば、このダーリンは相当広範なオタク分野をカバーしていて、オタクから見ても非常に魅力がある人だなぁ。ダーリンのオタクぶりもスゴいが、作者であるこの嫁さんもスゴいな。オタクに理解がありすぎる。

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ダーリンはアキバ系
ダーリンはアキバ系
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里中 ミナ
東邦出版
売り上げランキング: 141588
おすすめ度の平均: 4.5
5 理想的なひとつの形
3 アキバ系と一緒に暮らすということ
5 完全に旦那さんの方の立場に立って読んでましたwww


2007年02月19日

『黄昏色の詠使い イヴは夜明けに微笑んで』 - 始まりは、あの日交わした、一つの約束

『黄昏色の詠使い イヴは夜明けに微笑んで』(著・細音啓)書評

 先月のこと。知人から「知り合いがラノベの賞を獲った」という話を聞いた。最初、比較的歴史の浅いところの賞かと思ったら、富士見ファンタジアの佳作と聞いて仰天。それほどの賞を受賞した知人の知人(つまり赤の他人)の作品がどのようなものか興味を持ち、手に取った次第。

 話のとっかかり。
 この物語では『名詠式』と呼ばれる、召喚魔法のような技術が存在する。名詠式は『赤(Keinez)』『青(Ruguz)』『黄(Surisuz)』『緑(Beorc)』『白(Arzus)』の五色がある。名詠式を行うには、各色に対応した触媒(カタリスト)が必要。例えば、赤なら赤の絵具、緑ならカエル。
 この名詠式を教えるエルファンド名詠学舎において、イブマリーという名の少女は「夜色名詠」という、存在しない名詠式をマスターしたいと言い続け、皆から笑われている。そんな誰からも理解されぬ少女に、カインツという少年が唯一理解を示す。と同時に、少年は達成困難とされている五色全ての名詠を、十年でマスターしてみせると宣言。
 かたや存在が確立されていない夜色名詠、こなた不可能に近い虹色名詠のマスターを約束した少女と少年。かくしてこの二人の物語が始まる....と思いきや、話がいきなり十年くらい飛んで「え?」となる。
 名詠式を教えるトレミア・アカデミーに通う二人の少女・クルーエル(クルル)とミオが、ネイトという黒衣の少年に出会うところからが、本当の物語の始まり。これはしてやられた。
 既にカインツは20代にして虹色名詠士として著名な存在となっている一方、イブマリーは行方知れずに。そんな背景が語られる中、ネイトは「夜色名詠」という、誰も聞いたことがない名詠式をマスターしたいとクルーエルらに語る。


 名詠が非常に良い。
 横文字の方が何語なのかさっぱり分からんが、一編の詩としても心地良く、召喚されるモノが呼びかけに応える讃来歌としても美しい。竹岡美穂氏の、繊細なタッチで透明感のある口絵・挿絵と相まって、物語全体が芸術的なガラス細工のよう。
 作者・細音啓(さざねけい)氏は自身のペンネームについて「細(ささ)やかでいいから、音色(ものがたり)を啓(かな)でてみたい」としているが、細やかと言わず、ガンガン作品を発表して欲しいなと。

 ネイトをほっとけないクルーエルの母性が良い。
 無目的に名詠式を学ぶクルーエルにとって、「夜色名詠士になりたい」という確固たる目的を持つネイトは、非常に眩しい存在である。だからこそクルーエルが何かとネイトのことを気にかけ、応援する姿もまた美しい存在である。母性本能をくすぐられている少女って、良いもんだ。

 話の本筋はネイトとクルーエルの方が軸なんだけれど、イブマリーとカインツの方も気になる。入れ子のような構造になっていて、一粒で二度オイシイ。
 てかイヴ&カイの世代の方“が”気になる。序盤に登場したキャラが成長していて、ある時は名詠を用いて活躍し、ある時は往時を懐かしんでいるのを読むにつけ、徐々に空白期間が埋まり、色々とスッキリする。

 ネタバレ話。(文字色は背景色で)
 やっと再会できたイブマリーとカインツが別れる段階で、アーマがやって来た時、イヴが発した「ありがとうね、色々と」が凄くイイ。キマイラ退治程度のこととしかとらえていないアーマに対し、気まずい沈黙を破ってくれて「ナイスタイミング!」という意味を含めたイヴのねぎらいの言葉が、気が利いているなぁと。


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イヴは夜明けに微笑んで
細音 啓
富士見書房
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おすすめ度の平均: 5.0
5 美しくて切ない
4 『名詠』が紡ぐ新たな物語
5 凄い

2006年04月03日

【ルビーの指輪】マリア様がみてる くもりガラスの向こう側【神のまにまに】

2006/04/01(土)の近況
 マリみてシリーズ24冊目「くもりガラスの向こう側」読了。
 今回は「ドキ! 丸ごと着物、女だらけの新年会」が話の中心。小笠原邸での新年会は1年ぶり。そうかぁ、1年ぶりかぁ。こういう描写が出るたんびに「リアルではn年経ってるよなぁ」と思ってしまう。このマリみてシリーズ、一体何冊目まで出るんだろう。

 福沢祐巳・祐麒の年賀状。お互いのクラスメートが、相手方に送っている状態。「姉弟だから住んでるところが同じ→クラスメートの住所で送れば届く」なるほど、知恵の回る人が多いもんだ。福沢姉弟、気が付けばモテモテじゃのう。
 小笠原祥子の年賀状は、昨年の祐巳の年賀状を真似たモノ。すごい妹バカぶりだ。

 新年会当日。
 最寄り駅から小笠原邸まで歩いて15~20分。小笠原邸を何度も訪ねている祐巳が、初訪問の白薔薇姉妹(藤堂志摩子、二条乃梨子)を案内する形になりそうなものだが、祐巳はこれまで全て誰かの車で訪ねていたため、道案内は不慣れという。それを知った乃梨子が「大丈夫なんだろうか」光線を祐巳に浴びせるトコに笑った。祐巳、こういう場面での信頼度、低っ。乃梨子の先導で進む一行。小笠原邸が見えるや否や、祐巳まっしぐら。乃梨子と志摩子に「犬のよう」と表現される。「まるで犬みたーい」(by.鵜沢美冬)

 新年会は、今年も暴食パーティ。ピザや縁日の食い物をたらふく食った後に、高級寿司。フードファイトか、コレ。
 祐巳がウニを美味しく食べる姿を見て、好き嫌いの激しい祥子が涙目になりながらウニを食べる。これを見た母・清子「祐巳ちゃんの表情をおかずに、苦手なウニを食べるなんて!」と驚嘆。祥子の偏食も、祐巳がいるだけで矯正できそうですな。「祐巳ちゃんの表情をオカズに!」

 百人一首大会。祥子と志摩子の着物組が激強。強さは大体こんな感じ。
  ケルベロス組ステイ:祥子、志摩子
  ペガ・ユニスパイラル:支倉令、乃梨子
  ホビット組:祐巳
  フェアリー組:島津由乃

 人間双六。
祐巳「これで、何をしろと」
祥子「祐巳。服を脱ぎなさい」
祐巳「ええ!?」
祥子「わかった? じゃ、素直に脱ぎなさい」
祐巳「ちょっ、ちょっと待ってお姉さま。せめてそこの扉を閉めてください」
祥子「この家には女性しかいなわよ」
てな感じで祥子が大活躍。紅薔薇姉妹が優勝。
 単なる正月のお遊びで、カラオケセットや雑巾作り、ホットケーキ作りといったイベント盛りだくさんの双六を用意する小笠原家(てか清子さま)って、やることがデカすぎる。御坊家の茶魔さんもビックリですな。

 祥子とのめくるめくひとときを終え、後かたづけをしている祐巳に、痴漢の魔の手が。っても、融小父さんが清子さまと人違いをしただけ。それでも「祐巳の肩に手を掛けた」ってだけで痴漢扱い。日頃の行いって、ホント大事だよな。「妻と間違えて抱きつこうとした」ようなので、肩に手を掛けた段階でストップしたのが不幸中の幸いか。祐巳はこれで、小笠原グループの偉い人の弱みを握ったわけだ。

 祥子と柏木優の許嫁話は白紙に。
 祥子としては意を決しての発言だったようだが、清子と融は「ああそぅ」レベルの返答。それもそのはず、もともと親が決めた縁談ではなく、実は祥子が幼稚園児の時に言った「優さんと結婚したい」という発言が根源だったから。
 オイオイ、“小笠原家”という祥子の枷、こんなオチで解決かよ~。このネタの解決で数冊くらい物語が続くと思っていただけに、読んでる側としては肩透かし。あぁでもこういう解決の仕方って、実にマリみてっぽい。当事者にはその後の人生を左右するほど思い詰める重大事項だったのに、フタを開けてみたらあっさり解決、ってのはマリみての真骨頂ですな。
 にしても祥子は、学業や習い事は非常に優秀だけれど、俗世の出来事については、ほとんど記憶に留めてないようだな。印象的なお別れをした、幼稚舎でのクラスメイトすらまともに覚えていないからのう。
「彼女は覚えていなかったのだ。」(by.鵜沢美冬)

 夜。
 寝る前に、今年も“なかきよ”。
 皆が折り紙で折った船を「帆掛け船」と呼ぶ中、由乃だけが「騙し船」と呼ぶ辺り、性格が現れているなぁと。

 翌朝。
 山百合会メンバーで朝っぱらからラジオ体操。想像すると、妙な光景が浮かぶ。
 朝ご飯。福沢家では、目玉焼きに麺つゆをかけているそうで。他の面々は次の通り。
  祥子:醤油
  由乃:ケチャップ
  令:塩コショウ
  乃梨子:ウスターソース
  志摩子:醤油
  清子:マヨネーズ
目玉焼きに何をかけるかって、意外と話の種になるもんだ。

 新年会を終え、家へ帰る途中の祐巳。
 楽しい新年会が滞りなく終わったものの、松平瞳子については宙ぶらりんのまま。それは一旦置いといて、新年会の時の、柏木の不自然なコメントについて、祐巳が熟慮。思考した結果、柏木のコメントは瞳子に関する祐巳個人へのメッセージだったことに気付く。あの内容が自分へのものだと、よく気が付いたのう祐巳。普段は鈍いキャラなのに、変なところで鋭いな。

 祐巳が柏木邸へ向かおうとしたところ、出がけにお隣さんから回覧板。
お隣さん「最近物騒よね。うちも、祐巳ちゃんのお父さんに頑丈な家に直してもらおうかしら」
 おぉ、さすが今野先生、姉歯建築士についてチクリと風刺しておられる。こういう場面って、サラッと流していいのか、何かの伏線なのかと深読みすべきなのか、迷うのう。

 最後は真面目な話でシメ。
 くもりガラスの向こう側が見たければ、自分の手でも使って曇りをぬぐえば、向こうを見ることができる。
 けれども心の中のくもりガラスは、どうすれば向こう側が見えるようになるのか。こちら側の曇りをぬぐえたとしても、向こう側の曇りは、向こう側にいる人がぬぐってくれなければ、向こう側を見ることができないままである。祐巳と瞳子については、祐巳の側の曇りは既にぬぐえたが、瞳子の側は曇ったままであり、瞳子自身曇りをぬぐう気は無いのが現状。
 柏木から瞳子についての話を聞けば、瞳子が何について悩み、世界に対してどう絶望しているのか、簡単に分かる。しかし柏木から話を聞いたとしたら、それはくもりガラスを叩き割って向こう側を見ることと同じ。そんなことをすれば、割れたガラスで向こう側にいる瞳子が傷付くのは明白。
 そのことに気付いた祐巳が、柏木家の前まで来ていながら、柏木に何も尋ねず戻ったのは、当然のことだろう。


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