2007年08月03日

(SS)佐々キョン「佐々木さん、猫の目の日々の巻」

勝手に今日輝いていたハルヒのレス:

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215 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/08/02(木) 20:13:04 ID:QlOr+HCK
 なんか変な電波受信。

 佐々木さん、猫の目の日々の巻

 僕は猫である。名前は佐々木。
 でも、僕の飼い主であるキョンには上手く発音できないらしく、
 いつも僕を見ては、「シャミ」と訛って呼ぶ。変なキョン。
 ちなみにキョンは、僕のことを男性だと信じ込んでいる。
 まったく失礼な。だいたい三毛猫に雄はまずいないんだよ、キョン。勉強したまえ。
 僕がどこで生れたか、とんと見当がつかない。
 何故か、学校の帰りの横断歩道と、猛烈な勢いで迫ってきたトラックの運転手の
 驚いた顔をうすぼんやりと記憶している。
 でも、猫にとって過去は何の意味もないし、今、僕はキョンの傍で幸せだから、過去なんてどうでもいいんだ。
 僕は家猫で、あまり外には興味がない。
 窓から見下ろす人間や、時々、キョンが連れて来る人間を観察するだけでも結構楽しいのさ。
 まあ、時々この部屋に闖入してくる、涼宮さんは、声が大きくて動作が大きいので好きではない。
 猫というのは本来的にそういう存在を嫌うのであって、これは決して嫉妬でないことを明言しておこう。
 ……はて、僕は一体誰にむかってこんなことをわざわざ言っているのだろうね。くっくっ。
 それと、キョンの妹はちょっと苦手だ。僕をおもちゃにするのは、まあ仕方ないとしても、
 深爪するのと尻尾の毛を逆さになでるのと、お風呂に無理やり入れようとするのは勘弁してほしい。
 悪い娘ではないだけに正直困る。

 僕の一日はおおむね単調だ。
 朝、キョンの傍らで目覚め、遅刻しないよう、キョンを起こす。起きない場合は妹ちゃんのプロレス技が待っている。
 キョンが学校に言っている間は、部屋で一人でお留守番。
 たいてい、キョンのベットの上で転寝。

 浅い眠りの中で、僕は時々不思議な夢を見る。
 そこでは、僕はキョンと同じ人間で、どこか白い部屋で眠りについている。ずっと、眠りについている。
 時々、母さんと父さんが悲しげな顔で僕を見舞いに来る。でも、母さんと父さんって誰だろう。僕は猫なのに。
 そして、時折浮かぶ、かすかに記憶ある人たちの顔。
 藤原くんは、「こんなのは既定事項になかった」と何度も何度もはき捨てる。そうすることで現実を否認できるかのように。
 橘さんは、彼女は見ていてこちらまで痛々しくなる。涙が枯れるほど泣いて、それでもまだ真っ赤な瞳でぽろぽろと涙をこぼす。
 あなたが悪いわけではないのに、そんなに自分を責めないで。そう、声をかけたくなるほど、彼女はずっとずっと泣いている。
 そしてもう一人、長い黒髪の人が、こちらをずっと見つめている。
 「--あなたの、居場所は、そこではない--」
 そう、僕に向けてつぶやく。でも、僕は猫だから、関係ない。僕は幸せな猫なんだ。何も問題はないんだ。
 だから、戻る必要なんてない。
 時折、短い髪の無口な女性が、長い黒髪の人と一緒にこちらを見つめることもある。
 「……彼のためにも、あなたは戻るべき」
 そんなことを僕に向けてつぶやく。でも、それがどういう意味か、僕にはわからない、絶対、わからないんだ。

 人がましい不思議な夢が覚めるころ、キョンがいつも疲れて帰宅する。
 部活動とやらが忙しいらしい。やれやれ、人間は大変だね、キョン。
 そのままでいると、彼はそのままベットでダラダラと漫画を読んで過ごしてしまうので、
 邪魔をして机に向かわせるのが僕の仕事。
 最近は彼もあきらめたのか、僕が肘を2、3度噛むと、ともかく机に向かうようにはなった。
 学生の本分は勉強だよ、キョン。くっくっ。
 そんな彼のひざにちょこんと乗り、ゆっくり尻尾を振る。僕とキョン二人だけの時間。
 それが、今の僕にとってはかけがえのないすべて。

 時々キョンは、僕の耳をかきながら、遠い目をして窓を見つめる。
 「……佐々木、いつ目を覚ますんだろうな。なあシャミ」
 不思議だね、キョン。君が僕の名前を間違えずに言えるのは、必ず僕の方を見ないで、遠い目でつぶやく時だけだ。
 でも、僕は幸せだから、ただ黙って喉をならす。僕はこのままでいいから。君の傍にいられれば、それだけで充分だから。

 浅い夢の中で、「これは夢。目覚めればすぐにでも消えてしまう泡沫の時」と知りつつ、それを永遠に願うように、
 僕は、この日々が永遠に続くことを願っていた。
 それだけは、まじりけなしの真実だよ、キョン。
                                      続くものやら終わるものやら


216 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/08/02(木) 20:16:52 ID:MeiOHJdm
 >>215
 目からなんか出てきたGJ


217 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/08/02(木) 20:31:37 ID:ZRAlAl8M
 >>215
 なんか切ない…


218 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/08/02(木) 20:34:51 ID:OfXu22Ct
 >>215
 俺も目から変な汁が


219 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/08/02(木) 20:39:30 ID:yeZGwc0u
 >>215
 目から浸透液が出た
 いったいどこからこんな変態な電波を受け取ってるんだ


220 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/08/02(木) 20:39:41 ID:2ZTzGNUS
 >>215
 俺もなんか目からビームが・・・


221 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/08/02(木) 20:41:47 ID:bAyyn22/
 >>215
 不覚にも濡れた…目が


222 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/08/02(木) 20:42:10 ID:JhNLcO05
 >>215
 目から嘔吐が…


223 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/08/02(木) 20:42:33 ID:Y2ZyGoq5
 >>215
 目から何か液体が流れてきたのです…


224 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/08/02(木) 20:46:59 ID:lk0gfqUR
 >>215
 欝になりそうなほどGJだぜ…orz


225 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/08/02(木) 20:52:14 ID:WWk1taGv
 >>215に空裂眼刺驚


226 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/08/02(木) 20:57:19 ID:D3VfOD7v
 >>215
 人の身では果たせなかった夢を猫になって手に入れた代わりに、
 人でなければ得られなかった幸せを捨ててしまったことに気づかないで、
 それでも今が幸せだと、ただ喉を鳴らす佐々木の姿が切ない。

 こういうのははじめて読んだ。GJ!


227 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/08/02(木) 21:25:05 ID:Mhc3gsvw
 >>215
 泣いた

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(舟)
 死に気付かぬまま、猫に憑依して愛しい人の近くに居続ける。本人にとっては幸せなんだろうけれど、やりきれない幸福ですな。

SS作者が意図しなかったお通夜ムードに、フォローが入りました。

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228 :215:2007/08/02(木) 21:42:51 ID:QlOr+HCK
 あうあ。
 ち、違う、違うんだ。いや違うというのも変だけど。
 ちょっとイタい描写が増えただけで、
 そんなに深刻な話にするつもりはないんだ。
 みんなゴメン。本当にゴメン。

 佐々木さん外傷はなくて意識だけ何故か戻らない状態、というつもりだし、
 九曜と長門は気づいてるんだ。
 本人もうすうす気づいている通り、そのうち目覚めて元にもどる、一時の夢の話のつもりだったんだ。
 いや、受け止め方なんて書いた人間が強制できるもんじゃないけど。
 そんなに暗い話じゃないから。

 そもそも私アレですよ、
 橘「いやー(ry
 オチしか書けない人間ですから。


255 :1/2:2007/08/03(金) 01:50:41 ID:yqIgCBfE
 自分で再度読み返したら何かあんまり救いない話だったことにようやく気づいた。
 てなわけで慌てて続編。

 佐々木さん、猫の目の日々2 人の目の日々の巻1

 あれは、いつものようにとりとめのない話の中で、何気なく放り出されたような話題だった。
 「ねえキョン、民話・童話というのは、神話の変形であって、原型を色濃く残すものが多いのだそうだ。
  そして多くの神話は、「父殺し」というモチーフを含むのだそうだよ。子供が成人として社会に参入するにあたって、
  まず父の隠喩である怪物を殺し、母・妻のモチーフであるとらわれの姫を娶るという奴さ。
  メデューサやオイティプスなどが典型だろうね。
  こうしたモチーフを色濃く残している民話や童話は、眠り姫あたりだろうか。
  けどね、キョン。僕は時々思うんだ。こうした神話は、父権社会が確立された後の話だ。
  大地母神が主神である母権社会では、こうした神話は一体どういう形式を持っていたのか、とね。
  男達の神話の中で、ただ賞品として王子様を待っていた眠り姫は、
  自身の神話において、王子様に待ち飽いた時、一体どういう行動を取るんだろうね」
 そう言って、佐々木はいつものあの笑みを見せた。
 あのとき、俺は一体何と返答したのだろう。
 ……佐々木、お前は王子様を待つ柄じゃないだろ、いいかげん目を覚ませよ。
 そんな風に強がり交じりで呟いても、佐々木は目の前で静かに眠り続けている。
 童話の眠り姫のように、静かにひそやかに、誰も寄せ付けることなく。

 佐々木が事故にあった。
 国木田経由でそう知らされたのは夏休みが終わりかけた頃だった。
 夏期特別補修から帰る途中、信号無視のトラックに巻き込まれたそうだ。
 幸いとっさにうまく避けたらしく、大きな外傷はなかったのだが、頭でも打ったのか、意識だけが戻らないという。
 脳に損傷があるわけではなく、医者もお手上げらしい。
 理由が分からないのだから、明日目を覚ましてもおかしくないし、考えたくもないが、ずっと目を覚まさない可能性もあるそうだ。
 「そうだ」「らしい」「という」。伝聞ばっかりだ。しかも発言した専門家も原因不明ときている。
 この時ほど自分の無力さを恨めしく思ったことはない。
 ハルヒが巻き起こす騒動や、それに釣られて朝比奈さんや長門に何かあるというのは、
 決して望むことではないが、まあ「そういうこともありうる」という覚悟は、心のどこかにあったりするものだ。
 だが、佐々木は。アイツは中学時代の親友で。新たな神様とか、色々な変な取り巻きとかできた今でさえ、
 やっぱりアイツは、俺の自転車の後ろで、静かに月を見て微笑んでた友達なんだ。
 ハルヒと知り合う前の平凡な日常の中で、静かに、衒学的な会話以外に自分を主張することもなく。
 それでもあいつはいつも……。
 失って初めてその価値に気づくなんて、つくづく俺は大バカ野郎だ。1年も連絡を取らなかったくせに。

 事故を聞いた当初は動転して気づかなかったが、佐々木団(仮)の連中は俺に輪をかけて大騒ぎだった。
 藤原は「こんな事態、既定事項にはなかった。これはあってはいけないんだ」と何度もはき捨てていた。
 しかし動転してばかりで、役には立たなかったが、それ以上迷惑にもならなかった。
 朝比奈さんもイザという時に頼りになった記憶ってあまりないよな。
 アクシデントと逆境に、精神的に弱いってのは、未来人の共通の特色なんだろうか。まあポンジーはどうでもいい。
 九曜は「--彼女は、あなたと……共に--」とわけのわからんことしか言わなかった。
 相変わらずコミュニケーションの難易度の高い奴だ。
 問題なのは橘とその一派だった。
 佐々木の事故は「機関」の策謀の可能性があるとした、奴らの一部過激派が、
 古泉たちと事をかまえようとしたのだ。
 古泉に問いただし、
 「絶対にそのようなことはしません。第一、あなたの友人を手にかけるほど意味のない真似をしてどうします」
 と言質をもらっていた俺は、橘を通じて説得しようとしたが、
 その橘は、佐々木の事故を防げなかった自分を、廃人寸前まで責めていた。
 俺はあんなに深く佐々木のことを哀しめるだろうか、と思わずこちらが罪悪感を覚えるほどに。


256 :2/2:2007/08/03(金) 01:51:42 ID:yqIgCBfE
 だがとにかく、あちこち奔走し、あっちやこっちで話を聞き、必死に説明を続け、
 機関VS橘の組織、情報統合思念VS天蓋領域、朝比奈さんVSポンジー 
 などといった最悪の構図だけは避けられた。

 今思えば、「何で俺が」と舌打ちしつつ、SOS団と佐々木団(仮)を右往左往していた時の方が、
 精神的には楽だった。余計なことを考えずにすむから。
 いつの間にかSOS団と佐々木団(仮)の調整係なような立場に自分を追い込んじまった俺に、
 最初ハルヒはいい顔をしなかった。
 しかし、あまりに俺がしょげかえってるせいか、いつの間にかアイツも考えを変えたらしく、
 「あんまり落ち込みすぎなのよアンタ」と憎まれ口をたたきつつも、
 二学期が始まってからは、3日に1回はSOS団を抜け出して、病院に行くことを容認してくれた。
 さらに、俺について、一度など見舞いにまで来てくれた。殆ど面識ない相手なのに。
 「こんな形で1番に躍り上がるなんてずるいわよ。勝負するなら正々堂々としなさいよ」
 と、見舞いの果物に書かれたメッセージは、わけの分からないものだったが。

 そんなこんなで、あいつが倒れてから2週間半。
 胸のどこかがぽかりと空いたような気分は相変わらずだが、俺の生活は何とか日常に戻りつつある。
 あの事故以来、俺の落ち込んだ気分を察してか、えらく愛想よくなったシャミをひざに乗せて、
 俺は机に向かう。
 だが、視線を向けはするものの、教科書の中身はまるで頭に入ってこない。
 「……佐々木、いつ目を覚ますんだろうな。なあシャミ」
 気分転換にシャミを撫でながら、思わずそんな言葉が口からこぼれた。


 そのままウトウトと眠ってしまったのだろうか。
 目を覚ますと、そこはいつぞや見た、セピア色の閉鎖空間だった。
 おかしい。佐々木の事故以来、閉鎖空間に入れなくなったと橘は言っていた。
 もうすでに、佐々木の意識とともに、閉鎖空間も消滅してしまっているのではないかと。

 これは……、もしかして、佐々木の意識が戻ったってことなんだろうか。
 「やあキョン、こうして言葉を交わすのは、ずいぶんと久しぶりだね」
 懐かしい声に慌てて振り返ると、
 そこに、佐々木がいた。

                          あまりに眠いので次に続く


257 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/08/03(金) 02:05:37 ID:Nag2Rr9C
 >>255
 げえーーーー、続いたァ!!
 よし、ガンバレ、キョン。眠り姫の目を覚ますんだ。
 何をすればいいかは、みんなが知ってるぜw


258 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/08/03(金) 02:16:48 ID:mva7cs++
 >>256
 シリアスな場面なのにポンジーとか酷いなw


260 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/08/03(金) 05:02:47 ID:e+dNCr+L
 >>256
 とりあえずあんたにキスするから夢の中から戻って来い!
 俺は夜型なんだw

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499 :1/5:2007/08/06(月) 01:28:31 ID:g5ix2zqE
 足洗邸読んでてすっかり遅くなってしまいました。うぼぁ。>>215と>>256のつづき。
 なんかエロく長く、じゃなくてエラく長くなてしまたあるよ。

 佐々木さん、猫の目の日々2 人の目の日々の巻2

 「やあキョン、こうして言葉を交わすのは、ずいぶんと久しぶりだね」
 懐かしい声に慌てて振り返ると、そこに、佐々木がいた。
 いつもどおりの服装で。いつもどおりの穏やかな笑顔で。
 セピア色の風景の中、その姿がやけに溶け込んでいるように、俺には思えた。

 大丈夫だったのか、佐々木。いや、ここで会ったということは、お前自身はまだ昏睡状態なのか。
 矢継ぎ早に質問を繰り出す俺に、いつもの微笑みで答えると、
 「せっかくここで出会えたんだ。歩きながら話さないか、キョン」
 佐々木はそう言って、ゆっくり歩き始めた。
 「君を始め、みんなには色々と迷惑をかけたね。本当に申し訳なく思っているよ」
 そんなこと気にすんな。それより、もう、元通りなんだな、佐々木。
 「どうだろうね。さて、どこから説明すればいいだろうか。最初から順序を追っていくとしようか。
 特別講習帰りにトラックが突っ込んでくるのを見たときは、『あ、これで僕は死ぬのか』と正直諦めたんだ。
 年間の死者が1万人を割り込んだとは言え、交通事故というのは、特に若年層にとっては、ある意味一番身近な死の形態だからね。
 そういえばキョン、交通事故が原因の死者数でも、24時間以内に死亡しないと、交通事故死の数には
 計上されないというのを知っているかい? あれは警察の怠慢というか、数字さえあげればよしとする、
 非常に官僚的な悪癖だと思うがどうだろう」
 いや、交通行政の不備についての討論はいいから、その先どうなったかキチンと説明してくれ。
 「ああ、すまない。で、まあ正直諦めかけたのだが、その時、君のことがふと頭に浮かんだんだ。
 それで、思ったんだ。まだ死にたくないな、と。
 僕はまだ、君に言いたいことがたくさんあったし、
 やりたいこと、やらねばならないことが山積みだったからね」
 そうだな。高校生で死んで未練が残らない奴なんてまずいないだろ。
 「僕の含意する個別事例と、君が想定する一般事例の間の差異はひとまず置くとしよう。
 それで、何とか必死にトラックを避けようとしたのだけれど、どうにも間に合わなくて。
 そう。その時に、僕は現実を改変した、のだと思う」
 ちょっと待ってくれ。それって、
 「君が何度も見舞いに来てくれたのは知っているよ。その時、外傷はないと説明を受けたと思う。
 でも、実際には僕はトラックを避け切れなかった。だから、「避けきれず事故にあう」という現実を
 「奇跡的に避けて外傷はない」という現実に、改変したんだ。多分ね」
 ……じゃあ、橘たちが言ってたことは、ありゃ与太話じゃなかったってわけか。
 お前こそがハルヒの持ってる神様みたいな力の持ち主ってアレは。
 「それはどうだろう。全ては僕の勘違いで妄想の産物かもしれない。確かめようのないことだよ。
 或いはね、キョン。僕も、涼宮さんも、二人ともそんな力を持っている、そんなシンプルな結論なのかもしれないよ。
 ユダヤ教の唯一神じゃないんだ、その力を持つものが一人きりじゃなきゃいけないわけでもないだろう」
 意気込むでなく、投げやりでもなく、淡々と当たり前のことを語るような佐々木の口調は、その内容と偉くギャップがある。
 「まあ、そこは君の方の長門さんなりに聞いた方がいいよ。向こうが専門家なんだろうし。
 僕も、交通事故を回避しただけで神を名乗るほど身の程知らずでも、冗談が好きなわけでもないからね。
 これでも一応、君と同じ平凡な常識人を自認しているんだよ。くっくっ」
 佐々木が投げかけた問いに、俺が四苦八苦して答えたときに見せる、あの笑みを佐々木は浮かべた。
 こうしてみると、ハルヒみたいなバカげた力があろうがなかろうが、そしてそれを自覚していようが、
 佐々木はいつもの佐々木にしか見えないんだが。
 「ああ、すまない。久しぶりに君と話ができたせいか、僕もやや興奮ぎみだね。
 どうにも話があちこち脱線していけない。うん。僕が認識できた経過だけを語ろう」


500 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/08/06(月) 01:30:03 ID:g5ix2zqE
 「事故を回避できた、というのは、何となく分かったんだ。それが、現実を無理やり捻じ曲げた結果であることも。
 それとね、キョン。意識がはっきりしたとき、僕は、自分が、自分以外の存在の中にいることを認識したんだよ」
 公園まで歩いて、ブランコに座ると、佐々木はそういった。俺もその隣に腰掛ける。
 ブランコの感触は、現実世界のそれとまったく変わりなかった。
 それはそれとして、もうちょっと分かりやすく頼むぜ、佐々木。
 「あの事故の瞬間、僕が意識的に願ったのは、『事故で死にたくない』ということだった。
 それが叶って、僕はトラックに轢かれて若い身空で荼毘に付されることは回避できた。
 でもね、それと同時に、無意識の部分で願っていたことも、どうやら叶ってしまったみたいなんだ。
 僕が、僕のままでいる限り、決して近づけない場所へ行きたいという願いがあった。
 誰とも分かち合うことなく、独占したいものがあった。
 その願いまで、どうやら一緒になって叶ってしまったようなんだ。
 僕自身の肉体を置き去りにして、精神だけが別の場所に宿ることによってね。
 だからね、キョン」
 佐々木はそういうと、頭を少し傾げて、とても幸せそうで、とても優しげな、そんな深い色をした瞳で俺を見た。
 「今の僕は、とても幸せなんだ」
 そうか。そりゃ結構なことだが、ドラえもんの最終回の都市伝説じゃないんだ。
 のび太が夢の中でどれだけ幸せでも、現実は植物人間の末期状態、なんてのは俺はゴメンだからな。
 現実が一番だぞ、佐々木。
 「確かに僕にとっては夢のような幸せではあるが、夢を見ているわけじゃないよ。
 君が三日おきに病院に見舞いに来てくれていることも知ってるし、
 今の状態が両親や橘さん達を哀しませてしまっているのも、ちゃんと認識している。
 僕はね、キョン。
 きっと君が思っているより、ずっと君の傍にいて、ずっと見ていたんだよ。
 それにしても、三日とあけずに通いつめる、という表現があるけれど、きちんと三日おきというのは、
 これはその表現に該当するのだろうかね。僕としては、君に負担をかけるのは心苦しいが、
 もっと足しげく通ってもらえると、それなりに舞い上がってしまいそうな気がするよ」
 いや、佐々木、また話が脱線してるぞ。
 「ああ、たびたびすまない。しかしキョン、やはり君と話すのは心地よいね。
 このツッコミのタイミングも、君ならではのものだよ。」
 それは褒められたと思っていいのか。なんか微妙だな。


501 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/08/06(月) 01:31:08 ID:g5ix2zqE
 「だからキョン、僕は、今の状態が多くの人に迷惑をかけていることも、
 現実の肉体を置いてけぼりにしていることも、認識してはいるんだ。
 普段の精神が宿っている方が、なにせ精神活動が十全とはいかないものだけに、
 ちょっと深刻味は足りないようだけど」
 いつぞやの阪中のルソーみたいに、妹にでも入り込んだんじゃあるまいな、佐々木よ。
 「くっくっ。君の妹さんのために、それはないと断言しておくよ。ただ、惜しいところでもあると言っておこうか。
 ……キョン。僕はね、とても幸せで、これがいつまでも続けばいいなと、そう確かに思ったんだ。
 でも、それがひと時の夢で、欺瞞であることも分かってる。
 だからね、キョン。僕は、きちんと戻るよ。もうちょっと時間はかかるかもしれない。
 でも、きっと戻る。だから、安心してほしい。
 これ以上、学校を休んで留年して、君を「先輩」なんて呼ぶというのも、僕と君の関係ではよろしくないし、
 僕のことを案じてくれている人たちを、これ以上哀しませようとも思わない。
 第一、病院で点滴を受けたままというのも体に悪いしね。あまりやつれた姿を君に見られたくはないよ」
 いや、そんなことは気にしないが、とにかく早く戻れるならそれが何よりだぞ、佐々木。
 「そこは否定しないでくれたまえ、キョン。僕とて年頃の娘なんだからね。
 ……君には、ずっと伝えようと思っていたのだけれど、僕もこの能力を意識的に操れるわけでないんだ。
 宿主となっている肉体が眠りこんだときに、時々この空間に現れることができるようになって、
 そしてようやく、今日君を呼べたというわけさ。心配かけてごめんね、キョン」
 そうだな。まあ、お前が元に戻れるってんならいいさ。
 「うん。約束する。もう少ししたら戻るよ、現実に。そして、もう一つ。僕が元いた場所にも、戻るつもりだよ。
 もっとも、その場所の反対側には、涼宮さんやら長門さんやら朝比奈さんがいて、
 君の反対側の手を握り締めているかもしれないがね」
 なんだかよくわからんぞ佐々木。
 「さて、楽しい語らいの時間はそろそろおしまいにしよう。もう、目覚めかけてしまっているからね」
 そうか、俺は確か机で転寝してた気がするからな。目覚めたらここからおさらばってわけか。


502 :4/5 名前欄入れるの忘れた……orz:2007/08/06(月) 01:32:16 ID:g5ix2zqE
 「いやいや、そう単純な話ではないんだよ、キョン」
 何だろう。急に背筋に寒気が走った。佐々木の声が急に冷たくなったからではないのだろうが。
 「これは、僕がここにいる間に、僕の意識を訪ねてきてくれた、とある女性から仄聞したことなんだが、
 キョン、君は以前にも涼宮さんの閉鎖空間に入って、また出てきたそうだね」
 ああ、思い出すのもこっ恥ずかしい経験だがな……ってちょっと待て。佐々木、それを誰から聞いた。
 「何でも、その閉鎖空間から出るために、君はある特殊な行為を涼宮さんに行ったらしいと聞いたのだけれど、
 今回ここから出るためにも、同じことをすればいいというのは、理の当然だと思わないかね」
 いや、ちょっと待ちなさい佐々木さん。なぜ眼を光らせて俺ににじり寄ってくるんでしょう。
 そして何故俺の肉体は、俺の脳みそからの命令を一切拒絶しているんですか。
 ハルヒだってここまで閉鎖空間で好き勝手ができたわけじゃないんだぞ、ずるいと思わないか佐々木さん。
 「sleepinng beauty、という言葉を彼女が教えてくれたとき、偶然というものに何らかの意味を見出す
 神秘主義者たちの気持ちがちょっと理解できた気がしたんだ。
 覚えているかい? 中学時代、父権社会における眠り姫は、母権社会では如何なる存在だったか、と聞いたことを。
 僕はね、こう思ったんだ。結局、何も変わらないと。
 眠り姫を求めて、王子様が旅立ち、苦難を乗り越えたように、
 きっとはるかな昔、
 眠った王子を求めて、姫や巫女は旅立ち、苦難を乗り越えたに違いないのさ。
 社会がどう移り変わろうと、結局人間にとって一番大切なことは変わらないのだからね。
 大切な、自分自身よりも大切な誰かのために、人は苦難を乗り越えることができるんだよ。
 だからね、これは僕からの、涼宮さんへのメッセージ代わりとして受け取ってくれたまえ。
 あなたが自らを茨で覆い、ただ一人の王子様を招きよせたように、
 私は自ら目覚め、ふらふらとどこかへ行ってしまった王子様を、もう一度目覚めさせる所存です、とね」
 佐々木、顔近い。顔近い。
 「この力を持って始めてわかったよ。
 現実を改変する力も、宇宙人の不思議な力も、未来を知る力も、それは舞台装置の一つでしかないんだ。
 僕が競うに値するのは、現実改変能力を持った神様でも、宇宙規模の知性体の生体端末でも、未来人でもない。
 素直になれない君の同級生や、無口な読書好きや、魅力的な先輩の方なのさ。そちらの方が、よっぽど重大なことだよ。
 だからキョン、君の同級生には、きちんとこう伝えておいてほしい。
 同じ力を持つ者として、なんてことではなくて、君の自転車の後ろに一番乗ったことのある者が、
 今君の自転車の後ろに座っている人に、君の背中を見る場所を正々堂々と競い合いましょう、とね。
 よろしく頼んだよ」
 そして微笑みながら瞳を閉じて、佐々木は俺の唇に、自分の唇をそっと重ねた。
 言っておくが、何味とかその類の事項は一切知らん。夢の中で味覚は結構オミットされるものだ。
 そーゆーことにしておいてくれ。


503 :5/5:2007/08/06(月) 01:33:30 ID:g5ix2zqE
 「……俺の意見を言わせてもらえればな、眠り姫が眠るのに飽きたら、魔女のばあさんにクラスチェンジして、
 すき放題暴れ回るんだよ。そして哀れな王子様は、引っ掻き回されてストレスで禿げちまうんだ。
 まったく、ハルヒといいお前といい……」
 我ながら訳の分からない寝言とともに眼が覚めた。机で転寝してしまっていたらしい。
 よくは覚えていないのだが、ひどい悪夢を見た気がする。
 俺の肩の上で一緒に寝ていたシャミの重みのせいかもしれない。
 だが、不思議と眠り込む前の、重苦しい気分はすっかりよくなっていた。
 うなぁ。
 俺の動きで眼を覚ましたシャミの耳を掻いてやりながら、何となく、佐々木がもうすぐ目覚めるような気がしていた。
 さっきの見た夢のせいだろうか。よくわからない。ただ、佐々木はきっと目覚める。そんな確信があった。
 いつまでも眠り込んでるような奴じゃないもんな、お前は。
 「なあシャミ、橘に電話してやろうと思うんだ。佐々木ならきっとよくなるだろうから、心配すんなって」
 なぁう。
 シャミは、また以前のように人間の言葉が分かってでもいるかのように、妙に分別くさく返事をした。

                                                おしまい。

 なんか、最初に考えてたのと違う方向に着地した気がする。
 あと長くなりすぎたすまぬ。


504 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/08/06(月) 01:47:47 ID:qPue9WON
 いやいや、続きが見れて満足さ!
 乙&GJ!


505 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/08/06(月) 01:52:51 ID:671n/Ovk
 キター!楽しみにしてたんだよこれ!
 遅くまで起きててよかったぜGJ!
 佐々木が結論に行きつく過程がいかにも佐々木っぽくてイイ


506 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/08/06(月) 01:57:53 ID:94NR1ndM
 >>503
 起きてて良かった…心が綺麗になったぜ。
 「自ら目覚めて~」の辺りが素晴らしい。


507 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/08/06(月) 02:14:46 ID:rKzqQ7OD
 読みごたえあったぜGJ!
 しかし、今回フラクラとまでは言えないが、
 華麗にスルー技能全開のキョンにはなんともかんとも
 少しは意識せいよw


555 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/08/06(月) 19:47:43 ID:J9RlvWaP
 じゃあ>>503のおまけ

 佐々木さん、色々と台無しでござるの巻

 「なあシャミ、橘に電話してやろうと思うんだ。
 佐々木ならきっとよくなるだろうから、心配すんなって」
 なぁう。

 ……ところでシャミよ、お前確か雄だったと記憶しているんだが、
 なんか……ついてなくないか、お前?
 うなぁ!
 大変だ! 古泉のところのシャミ2号といつの間にか入れ替わったのか!?
 それとも、近所の猫が間違えて居ついちまったのか?
 落ち着け。見間違いという可能性もある。あるいは、機関か長門らが
 何かの理由で去勢したのかもしれん。
 シャミ、ちょっともう一回よく見せてみるんだ。

 いに゛ゃぁあああ!!
 バリバリバリバリ。
 ぐああ。


 後日、意識が戻った佐々木さんが、
 「キョンにお嫁にいけないような真似をされてしまった」
 といったせいで、キョン家で家族会議とか、●が死にそうになったとか、
 橘京子と朝比奈さんがショックでぶっ倒れたとか、
 長門と九曜がしばらくネコ耳をつけ、何を言われても外そうとしなかったとか、
 色々あったりなかったりしたそうな。
                                 色々台無しにしておしまい


557 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/08/06(月) 20:13:41 ID:MGt71Uoe
 >>555
 「シャミセンは雄だったよなぁ」と言う疑問が氷解したw
 キョンが寝てる間にいろんなトコに頭こすり付けて自分の匂いをマーキング
 してそうだな>佐々木inシャミセン


559 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/08/06(月) 20:14:31 ID:U4FMaD1g
 猫佐々木期間に、発情期はかぶってなかったのだろうか。


560 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/08/06(月) 20:17:36 ID:HXcE+T29
 >>555
 ワロタGJ!!
 ついでに祝ゾロ目


561 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/08/06(月) 20:30:49 ID:mUCMuJ2o
 >>555
 乙!やはり●はそういうポジションかw

 ポンジーは?

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「輝いていたハルヒのレス」リスト一覧:総合SS改変ガイドライン

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引用元:【涼宮ハルヒ】佐々木とくっくっ part16【変な女】

コメント

神神神神神神神神神神神神神神神神神神神
そんでもって>>555で台無しww
驚愕の次の巻(短編集)に
載ってもいいくらいのクオリティ

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