(16)『イメージシンボル事典』 - 「長門有希の100冊」を読む
「長門有希の100冊」No.53
『イメージシンボル事典』
作者:アト・ド・フリース(訳者代表:山下主一郎)

◎感想・評
長門有希の100冊の中には、SFやミステリものが多数ある。そのイメージから、本書については当初「変わったタイトルだけれど、ま~、SFかミステリなんだろう」と認識していた。
ある日。図書館でちょっとした調べものをするため、辞書・事典コーナーを物色した時のこと。「あれ? どっかで見たタイトルの本だな……あ」。まさか本当に事典だったとは。
本書はオランダの文学博士アト・ド・フリースが編纂した、イメージ及びシンボルの事典である。収集対象は、主としてシェイクスピア作品や聖書などの西欧文学。この本で全て丸分かりとは言い切れないが、西欧文明のシンボリズムを事典形式で700ページ以上に渡って網羅し、項目は相当な数にのぼる。西欧文明のシンボリズムを調べたり、学ぶのに、絶大な信頼が持てる一冊と言える。
キリスト教絵画のポピュラーな題材に『受胎告知』がある。聖母マリアが主イエス・キリストを処女懐胎した旨を、大天使ガブリエルが告げる場面を描いたものである。この絵画において、ガブリエルがユリの花を携えているケースがある。これには、れっきとした理由がある。ユリの花には「無垢」「貞節」というシンボリズムが内包されており、聖母マリアの純潔性を示しているのである。
絵画の中に、何気なく小道具が描かれていたとする。これを取るに足りない小道具として意に介さずスルーするのと、「ん、この小道具は……そうか(ニヤリ)」と作者の意図を見抜くのとでは、作品理解に差が生じているのは明らかである。これは絵画に限らず、文学などの創作物全般に当てはまる。シンボリズム知識を身に付けることは、自身の教養を深め、作品理解の助けになると言えるだろう。
◎『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズへの影響
・涼宮ハルヒシリーズのイメージシンボル
作者・谷川流氏が意図的にイメージを内包させているのか否かは分からないけれど、ハルヒシリーズに関して思い浮かんだ項目をいくつかピックアップし、簡略した本書のイメージシンボル解説を併記してみる。
key 鍵
・謎、秘密、慎重を表す
・見張り、解放を表す
・(禁じられた)知識を表す
door 扉、戸口
・ある状態から次の段階へ導くもの
・外側からの危険を防ぐ遮蔽物、防護物
・秘密を守るもの
Sisyphus シシュポス
・愚かしいことを意味もなく反復する人間の努力を表す
knife ナイフ
・卑劣な、こっそり隠しもつ武器
・生贄
・復讐の武器
dismemberment 分裂
・個人や宇宙が増殖して全なる一に返ること
・無意識のむら気、偏執、固定観念などにとりつかれることはずたずたに引き裂かれること
・精神の分裂、崩壊
canopy 天蓋
・王の権威を表す
・保護を表す
・天界、天国を表す
◎他
本書の価格は、定価で8000円。「長門有希の100冊」の百冊全部をチェックしたわけではないが、一巻一冊のみの本としては、トップクラスの高価さを誇ると思われる。もっとも700ページ超の事典という時点で高価になるのは致し方ないし、その価格に見合う内容であると私は判定する。
個人の趣味レベルでは「そんなに使う機会があるか?」という感じで、おいそれと手が出せそうにない。パラパラめくって、目に入った語を頭に入れるだけでも面白いんだが、多分相当無駄な使い方だろう。創作活動を行っている人ならば、手元に置いて活用する機会があるか。購入の前に、図書館で内容をチェックすると良いかと。
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関連アーカイブ
・(15)『トンデモ本の世界』
・(14)『ゲーデルの哲学 不完全性定理と神の存在論』
・(13)『金なら返せん! 地の巻』
・(12)『金なら返せん! 天の巻』
・(11)『時間衝突』
・(10)『吸血鬼伝承「生ける死体」の民俗学』
・(9)『有限と微小のパン』
・(8)『昭和歌謡大全集』
・(7)『夏への扉』
・(6)『パスカルの鼻は長かった』
・(5)『猫たちの聖夜』
・(4)『バブリング創世記』
・(3)『海がきこえる』
・(2)『たったひとつの冴えたやりかた』
・(1)『復活祭のためのレクイエム』
関連ページ
・長門有希の100冊
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