(14)『ゲーデルの哲学 不完全性定理と神の存在論』 - 「長門有希の100冊」を読む
「長門有希の100冊」No.23
『ゲーデルの哲学 不完全性定理と神の存在論』
作者:高橋昌一郎

◎感想・評
不完全性定理。
「システムSが正常であるとき、Sは不完全である」
「システムSが正常であるとき、Sは自己の無矛盾性を証明できない」
アインシュタインの名を知っている者は、世界中に沢山いるだろう。一方クルト・ゲーデルの名を知っている者は、アインシュタインと比べて圧倒的に少ないであろう。「「三段論法」を確立したアリストテレスに比肩する論理学者」この紹介ですら過小であると評価されている「不完全性定理」の証明者にしては、いささか寂しいものがある。相対性理論を生み出したアインシュタインと深い交流を持ち、揃って20世紀における最大級の業績を残した両名。しかし両者の知名度には、雲泥の差がある。陽のアインシュタイン、陰のゲーデル。なぜゲーデルだけが陰になってしまったのか、本書に描かれたゲーデルの来歴を読むことで知ることができる。
本書は、有史に残る学者ゲーデルの名や「不完全性定理」すら知らない、論理学・数学・哲学知識を持ち合わせていない人を対象としている入門書である。
私自身、ひいき目に見ても、その手の知識に関しては大した持ち合わせがない。本書を一通り読み終えての率直な感想を一言で述べると「これで入門書なのかぁ」である。とは言ったものの「全く理解できなかった」というわけでも無い。本書は、理解するのが難しい話ばかりではなく、入門者でも取っつき易いよう、ゲーデルのエピソードや、興味を持てるパズルを織り交ぜて構成されている。入門者の挫折原因になりやすい、理解するのが難しい話が延々続くようなことはなく、一通り読んでみる気にはなる。
読み方としては、自分の理解できる箇所をじっくり読み、難しい・理解できない箇所は後回し。何度か読み返すことで理解を深め、理解できる箇所を増やしていくと良いかなと。
本書は5章立てである。以下、各章について。
1章は、不完全性定理をイメージとして理解する。アナロジー(既知の概念を手がかりにして類似点を見出し、新たな概念の意味を類推する手法)とパズルを用いて話が進む。ここで提示されるパズルは「頭の体操」的なものが多く、単にパズルを解くだけでも楽しい。パズルを解くうち、おぼろげながらも不完全性定理がどんなものかイメージできるようになる。
2章は、ウィーン時代のゲーデルと、不完全性定理確立時の反響。不完全性定理がどのようにして成ったかを、ゲーデルの生い立ちから説明。ゲーデル本人どころか、ゲーデルの父・母・兄の人となりまで記述されていることにたまげた。家族に歴史的偉人がいると、素行をこうやって世界に広められてしまうんだなあ。あとこの章、難問クイズで耳にするような学者が多く出てくるので、「おっ、この人は難問クイズでよく聞くあの人じゃん」という変な楽しみ方ができた。
3章は、不完全性定理の哲学的帰結。この章から、難易度大幅アップ。内容はギブス公演での抄訳や、数学的実在論の分析。合間に挟まれるゲーデルのエピソード話が無かったら、多分この辺で挫折していたと思う。
4章は、「神の存在論的証明」。晩年のゲーデルと、ゲーデルの遺稿の解説。「神」は存在するのか、それすらも論理で証明しようとする。その証明によると、唯一の神が存在するそうで。
5章は、不完全性定理と理性の限界。人間の認識論、人間機械論論争にチューリングマシン、グリムの神の非存在論について。
◎『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズへの影響
・古泉一樹の哲学
古泉の思考は、ゲーデルの影響が大きいんだなあと、つくづく思わされる。それと「笹の葉ラプソディ」で長門有希が発した不完全性定理を意味するセリフをきちんと理解し、それをキョンに対して分かり易く説明しようとしている点も。
普通の高校生(キョン)が、日常レベルでこの手の話を聞かされていたら、ウザくなるのも分かる。
◎他
『吸血鬼伝承』でも思ったけれど、研究書は「理解すること」が大事なだけに、先に読み進めたけれど意味が分からず、戻ってもう一回読み返すことが多かった。こういう本は手元に置いて、気が向いた時にパラパラめくって新たな発見をする。そういう読み方ができたらいいのかなと。
本書を刊行している「講談社現代新書」は2004年にカバーデザインが一新され、中央に四角形が描かれた表紙デザインとなっている。本書は1998年に発表された本であるため、装丁は2種類ある。
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関連アーカイブ
・(13)『金なら返せん! 地の巻』
・(12)『金なら返せん! 天の巻』
・(11)『時間衝突』
・(10)『吸血鬼伝承「生ける死体」の民俗学』
・(9)『有限と微小のパン』
・(8)『昭和歌謡大全集』
・(7)『夏への扉』
・(6)『パスカルの鼻は長かった』
・(5)『猫たちの聖夜』
・(4)『バブリング創世記』
・(3)『海がきこえる』
・(2)『たったひとつの冴えたやりかた』
・(1)『復活祭のためのレクイエム』
関連ページ
・長門有希の100冊
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講談社 (1999/08)
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世界一の天才のクルト・ゲーデル
副題の後半に注目
パラドクスは超越への扉



















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コメント
>>「笹の葉ラプソディ」での「無矛盾な公理的集合論は自己そのものの無矛盾性を証明することができないから」という古泉のセリフ
重箱の隅を楊枝でほじくるようで恐縮だけど
それ、古泉じゃなくて長門のセリフ(130ページ参照)
もっとも、古泉も理解してるけど
Posted by: 大量発生 | 2007年04月04日 10:08
>大量発生様
すみません、確かに長門のセリフでした。古泉のセリフだと思い込んでいました。これに合うよう、文章を修正させていただきました。
Posted by: 鈴木舟太 | 2007年04月05日 03:36