(12)『金なら返せん! 天の巻』 - 「長門有希の100冊」を読む
「長門有希の100冊」No.78
『金なら返せん!』(第1巻『金なら返せん! 天の巻』)
作者:大川豊

◎感想・評
最初に長門有希の100冊のラインナップを目にした時、一つ、異彩を放っているタイトルがあった。厚モノ、SF、ミステリ、おカタい本が並ぶ中、芸人・大川豊の『金なら返せん!』が入っているのは「何で?」と率直な疑問が浮かんだ。百冊の中には、やわらかい本もあるにはあるが、私にはこの『金なら返せん!』が一際飛び抜けた違和感であった。もっとも「何で?」という疑問は、本書を読み終えた後、納得に変わったが。
本書は雑誌『ぴあ』で連載されていた大川豊の同名コラムを、一冊にまとめたものである。コラム連載当時、毎号というほどではないが、たびたび目を通していた。その頃は「こんなに借金を抱えて、どうやって生活しているんだろう?」くらいの間が抜けた疑問を抱いていたくらい。今思うと、これは感受性に乏しかったなと反省。
昔は、借金の額ばかり心配していたけれど、もっと大川豊本人のような考え方で、楽しみながら読むべきだった。借金に対して暗くならず、むしろ借金をネタにして笑い飛ばせるくらいの心意気があれば、私にももっとユーモアのセンスが身に付いていたろうに。今後の心の持ちように関して、もっとポジティブになろうと思わせる一冊だった。
連載を読んでいた頃は気付かなかったけれど、「全額返済まであと○○円」の表示は、『宇宙戦艦ヤマト』の「地球滅亡まであと○○日」のパロディだったのか。これ、借金が減るどころか増えてばかりだったので、パロディだと気付かなかった。
『ぴあ』で読んでいた頃から十数年が経ち、あらためて本の形でコラムを読み返すと、「これホントかよ~」という借金ネタの豊富さに驚かされる。コラムは総じて筆が上手く、語り口にグイグイ引き込まれる。知らぬ間に江頭2:50の連帯保証人にされていて「借金200万円」って、それは文字通り裁判沙汰では。「怪しい電話の声」に出てくる“買い取り屋”との会話は、うさんくささ半分も、再現が真に迫っていて非常に面白かった。裏社会には、こういう仕事をする人もいるんだなと。
本書を読んでいると、90年代(特に前半)を懐かしめる名前が多くて、ノスタルジィに浸ってしまう。ざっと適当に単語を拾うだけでも、電波少年、ピロピロ、ジッタリンジン、オルケスタ・デ・ラ・ルス、男同志、MANZAI-C、松本ハウス、ホーキング青山、マーチン・セント・ジェームス、ビヨンド、NHKムスタンやらせ事件、K・Yサンゴ、朝日ジャーナル、ギルガメッシュないと、松坂季実子、磯野家の謎、一杯のかけそば、尾上縫、ブランチ・ダビディアン、ショー・コスギ、花柳幻舟、小和田雅子様の結婚の儀etc. これらを楽しんでいた時代は、もう十数年前の出来事になってしまったのか。本書は90年代の縮図を見るよう。
◎『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズへの影響
・感じるまま、感じることだけをする
大川豊&大川興業の行動原理が、どうにも涼宮ハルヒ&SOS団のそれとかぶる。
大層な借金をこしらえてまで公演活動を行う。「自分(達)のやりたいこと」を実現するため、面白おかしい活動をすぐに実行に移す。活動内容は異なるけれど、後先考えずに活動して、自分達はもちろん、周囲を楽しませ、笑わせる点は類似する。中にはその活動に対し、眉をひそめる部類の人達がいる点も。
もっとも、現実の方はフィクションとは違って、後先考えない行動の結果が“借金”という形で跳ね返ってくるけれど。
◎他
私が調べた限りでは、この『金なら返せん!』シリーズは、今回紹介した「天の巻」に、続刊となる「地の巻」「人の巻」「ビッグバンの巻 上」「完結編(金メダル)」の5巻が刊行されている。「ビッグバンの巻 下」があるのか、それが「完結編」に当たるのかは分からず。また「天の巻」「地の巻」は幻冬舎アウトロー文庫より文庫化されている。今回私が入手した「天の巻」は文庫の方。続刊分も、機会を得て読み進めたいところ。
本シリーズは内容的に、教育上よろしくないと判断されるせいか、お国の施設の図書館にはあまり置いていない。なので他の百冊と比べて「借りる」という手段で読むことが難しい。長門有希の100冊完読を目指している方は、購入機会があるうちに入手することを勧める。
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関連アーカイブ
・(11)『時間衝突』
・(10)『吸血鬼伝承「生ける死体」の民俗学』
・(9)『有限と微小のパン』
・(8)『昭和歌謡大全集』
・(7)『夏への扉』
・(6)『パスカルの鼻は長かった』
・(5)『猫たちの聖夜』
・(4)『バブリング創世記』
・(3)『海がきこえる』
・(2)『たったひとつの冴えたやりかた』
・(1)『復活祭のためのレクイエム』
関連ページ
・長門有希の100冊
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