2007年03月09日

(11)『時間衝突』 - 「長門有希の100冊」を読む

「長門有希の100冊」No.15
 『時間衝突』
 作者:バリントン・J・ベイリー(訳者:大森望)



*若干のネタバレ要素があります。その点、ご注意下さい。


◎感想・評
 『時間衝突』というタイトルから「あぁ、時間移動を行うSFなんだな」というのはまず推測できる。「じゃあ、時間が衝突するってどういうこと?」と小さな疑問を持ちながらページをめくると、時間の流れに関して自分が抱いている概念を、根本から揺るがす内容に驚愕。
 本書の時間概念を完全に理解したわけではないが、自分らとは逆方向からの時間の流れで生きる文明が存在し、数世紀という“近い将来”に、時間線同士が衝突、地球はオシマイ。よくこれほどのアイデアを思いつくものだなと、心底感嘆。

 物語の方は、異星人によって滅ぼされかけるも、タイタン軍が“地球を勝ち取る戦争”に勝利したところから始まる。
 地球の歴史は戦争の歴史でもある。戦争勝利者が行うことは、いつの時代も「歴史の作成」である。もちろん、勝利者にとって都合の良い歴史の。
 “正確な歴史”なんてものは、超越した存在にしか作れないものである。かといって、全く根拠のない歴史を捏造することもできない。特に、異星人の次なる襲来を予測する必要があるだけに、正確な歴史の作成は急務。そのような理由から、タイタン軍は異星人が地球に残した考古の対象となる遺跡の調査を、考古学者ロンド・ヘシュケに任せるあたりが冒頭のくだり。この遺跡が、ずっと昔に撮影された写真の映像の方が、今ある遺跡よりもはるかに古びている、という謎つきで。
 歴史調査の段階で、異星人が所有していたはずの文明が、あさはかな勝利者によって破壊されたくだりを読むに、現実に歴史調査を行う人も、こういう感想を抱くのだろうなと。地球上において、戦勝者が行った略奪・破壊行為により、どれだけの知的文明が永久に失われてきたことか。

 本作はSF的な部分だけでなく、風刺が効いている部分でも優れている。地球を支配しているタイタン軍は、冷戦下における米ソの「悪いとこ取り」をしたような組織。弾圧・思想統制は旧ソ連のそれ。白人種を<真人>、それ以外の人種を<異常亜種>として排除する、徹底した純血主義ぶりは、人種差別の酷いアメリカのよう。こんな組織が遠い未来の地球を支配しているとはケッサクである。しかも、地球母を守るため、息子らがとった行動は、水素爆弾を抱えての未来への特攻。こんなのが支配者になったら地球の未来はお先真っ暗であるが、現実は案外これと近いのではと思い、暗澹たる気分になる。


◎『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズへの影響
・時間(移動)概念
 時間旅行機で未来から過去(or過去から未来)へと移動した者は、過去への干渉ができない。<いま>はある一瞬からある一瞬へと移動している。過去の人間はロボットのように、あらかじめプログラムされた機械のような行動を取る。宇宙は人為的に加えられた変化に無関心であり、どこに<いま>があるか頓着しない。「親殺しのパラドックス」については、たとえ親殺しに成功しても、それでも生きていると。原因と結果は<現在波>の中でのみ生じ、過去を変えることはできない。
 朝比奈みくるが説明した「パラパラマンガの一部に余計な落書きをしても、ストーリーは変わらない」という時間移動概念は、本書の概念に通じる。この理論で行けば、過去の既定事項をみくる自身がやらず、<いま>を生きているキョンにやらせている理由に合点が行く。


・異星人を極度に畏れる地球人
 最終的に勝利することはできたものの、地球人類は異星人によって全滅寸前にまで追いやられた。しかも、いつか再び異星人からの襲撃がやって来る。タイタン軍の面々は、そう信じている。
 ハルヒワールドと本書は異なる世界観を持つ作品であるが、このような背景があったと考えると、朝比奈みくるが長門有希を異常に畏れる一つの理由になるか。


・人知を越えた力を持つ、超越存在
 本書の<斜行存在>は、情報統合思念体とどこかかぶる。
 <斜行存在>は地球の全てを知っており、未知の力を有する、人間から見れば神様みたいな存在である。
 そんな存在の“趣味”は、生命の芽生えた惑星の観察。またリアド・アスカーとの対話に際し、若い女性を作り出したりも。
 ただ異なる点としては、<斜行存在>は有機生命体と直接対話でのコミュニケートを苦もなく行っていることか。


◎他
 ヘシュケは腹が出たオッサンのはずなのだが、私の脳内ではスマートな、特性のないラノベ的主人公に脳内補完されてしまう。ヘシュケに限らず、アスカーやオブロモット、スームンらも同様。もしや知らぬ間に腐女子フィルターが備わってしまったのだろうか。


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関連アーカイブ

(10)『吸血鬼伝承「生ける死体」の民俗学』
(9)『有限と微小のパン』
(8)『昭和歌謡大全集』
(7)『夏への扉』
(6)『パスカルの鼻は長かった』
(5)『猫たちの聖夜』
(4)『バブリング創世記』
(3)『海がきこえる』
(2)『たったひとつの冴えたやりかた』
(1)『復活祭のためのレクイエム』

関連ページ
長門有希の100冊

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