(9)『有限と微小のパン』 - 「長門有希の100冊」を読む
「長門有希の100冊」No.31
『有限と微小のパン』
作者:森博嗣

◎感想・評
本作は森博嗣のシリーズ作品の中で、『すべてがFになる』を第一作とした“S&M(犀川創平&西之園萌絵)シリーズ”の最終作(10作目)に当たる作品。シリーズものの一番最後をいきなり読むのはどうかなぁと思うが、読み始めた段階ではこれがシリーズものであることすら知らず。ある程度読み進めたところで「あ、これシリーズものか、まぁいいや」と、気にしないことにした。
計算の速い人が多すぎて、置いてきぼりにされているような状態。作品にいくつかなぞなぞっぽい小ネタが差し挟まれるのだが、これがさっぱり分からん。森博嗣ファンや、普段から『名探偵コナン』を読み込んでいるタイプの人なら、こういうのを即答すんのかな。とりあえず、例として一問。
彼と彼女は正反対。
でも、彼女の上半分は、彼の下半分。
上半分が彼なら、下半分は彼女。
海を越えたとき、
二人は同じ尾をつけた人間になる。
主人公グループの犀川&萌絵は、これを共に即答しちゃうんで「エェェェーーー」となるわけです。ちなみにこのなぞなぞ、作中では大ヒットゲーム『クライテリオン』の最終フロアで読めるもので、ゲーマーの間では謎のまんま、という設定らしい。いくらなんでも、大ヒットゲームで提示されたなぞなぞを、誰一人解けないなんて状態になるか?
あとこの『クライテリオン』というゲーム、どうにも「これ、面白いのか?」と思ってしまう。いや、実物ができて、実際にプレイしたら「おもすれ~」とかハマるかもしれんけれど。最大の売り物が、どうも人工無能的なイメージしか沸かないんだよな。今時の人工無能が、更に高度な会話エンジンを構築して、かつ人間的な言葉の表情・機微を有するようになったら、この『クライテリオン』は現実のものになるかのう。
序盤に記される、天才ではない者を“天才”と呼ぶのは、人々が本当の天才を知らない、もしくは天才を認知する能力を持っていないから、って意味の言葉に同意。
私自身、周囲の人よりかクイズ好きなせいか、冗談めかして「クイズ王」とか称されることがたま~にあるけれど、とてもではないが自分がクイズ王とは思わんし。こういう場合の“クイズ王”は、単に“クイズが強い人”的な意味であり、“天才”って単語を軽い意味で使うのと同じようなもんだ。んで、“本当の天才”を知る者にとって、自分らが“天才”と呼ばれることほど、滑稽なことは無いだろう。ま~、凡人の私からすれば、犀川も萌絵も、充分天才だと思うんだがね。
◎『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズへの影響
この項は、本作の根幹に関わるネタバレになるので、背景色と同じ文字色で記す。未読の方がこの項を読むと、本作の面白さが大きく阻害される恐れがあるので、その点、ご留意を。
・ホスト側全員が、キャストに対するアミューズメントとして、殺人事件のお芝居を行った。
種明かしの段階までこの考えに全く至らず、これはやられたな~と。事件について、よもや数十人規模でのお芝居をやっていたとは、ゆめゆめ思わなかった。私自身が、「孤島症候群」という、この作品をモチーフにしたであろう作品を知っていたというのに。
殺人については次の通り。
一人目:演技のはずが、本当に殺された(ホスト側は演技と思い込んでいる)
二人目:演技で死んでいる
三人目:演技のはずが、本当に殺された(ホスト側もすぐに認知)
このうち二人目について。ハルヒにおける多丸圭一みたいに「二人目は演技で死んでいる」という可能性も少しは考えたが、ホスト側の態度に違和を感じつつも「二人目も本当に死んでいる」と思い込む方に誘導されちゃったなぁ。
解決編に当たる部分は、萌絵→ハルヒ、犀川→キョンのよう。主客のハルヒは謎を解けず、横で見ていたキョンの方が真相に迫って謎を解いたと。原作版の「孤島症候群」で、ハルヒが謎解き面でミスリードにはまったのは、この作品をなぞったからかね。
あと犀川と萌絵が、恋愛について奥手である点も、キョンとハルヒにかぶるかな。
◎他
塙理生哉社長が良い。頭がきれるばかりでなく、きちんとした教養も身に付けており、洗練されている。女を口説き慣れているようでいて、実は一途であるというギャップもたまりませんな。萌絵一人のために、あっと驚かせるような大がかりな準備をしちゃうくらいだし。男が萌える男ですな。アッー。
あ、あと塙という名字を見るたんびに、塙保己一を想起してしまい困った。
犀川には、萌絵よりも真賀田四季とくっついて欲しいな~と思ったり。ちぅか萌絵は悪い意味で「計算高い女」に見える。本来萌えるべきであろう所作に対し、「これも演技や計算でやっているんだろうな~」と、冷めた見方をしてしまう。
あ、あと萌絵は倒れすぎだろう。
元チーフの島田文子が、ガモンらプログラマ勢をどうやってまとめていたのか、不思議でしょうがない。ガモンの「すみませんね、礼儀知らずな連中で。」ってセリフ、一見丁寧だけれど「フヒヒwwサーセンwww」レベルのニュアンスだよな。
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関連アーカイブ
・(8)『昭和歌謡大全集』
・(7)『夏への扉』
・(6)『パスカルの鼻は長かった』
・(5)『猫たちの聖夜』
・(4)『バブリング創世記』
・(3)『海がきこえる』
・(2)『たったひとつの冴えたやりかた』
・(1)『復活祭のためのレクイエム』
関連ページ
・長門有希の100冊
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これは素晴らしい
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シンプルで難解なお話
『天才』と『幼稚』
10作目


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コメント
「衣裳戸棚の女」を読んでみることをお勧めします。長門がアニメで読んでた本ですね。
S&Mが気に入ったなら1作目の「すべてがFになる」 も読むといいかもしれませんね。
Posted by: み | 2007年02月24日 11:17
>み様
書籍のお勧め、ありがとうございます。『衣裳戸棚の女』も「長門有希の100冊」に選定されている本なので、そのうち読んでみたい本の一冊です。『すべてがFになる』についても、機会を見て一度読んでみたいと思います。
Posted by: 鈴木舟太 | 2007年02月24日 13:07
東野圭吾「ある閉ざされた雪の山荘で」とトリックとしては似てますね。
(まあ、微パンも読んだことあるんですけど。
ただコッチより、もう少し捻ってあるけど
Posted by: みすてりー | 2007年02月24日 13:47
>犀川には、萌絵よりも真賀田四季とくっついて欲しいな~と思ったり。
まあ、「四季」シリーズがあるくらいですし、真賀田四季の方が可愛いですしね
なんだろう、長門と似てるんですよね、雰囲気とか、空気とか
Posted by: www | 2007年02月24日 14:34
>みすてりー様
このタイプのトリック自体は、他にも類例があるのですね。
>www様
真賀田四季が長門有希に似ている、というのは同感です。「『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズへの影響」の一点として、挙げようかとも思ったくらいです。
Posted by: 鈴木舟太 | 2007年02月24日 16:53