『黄昏色の詠使い イヴは夜明けに微笑んで』 - 始まりは、あの日交わした、一つの約束
『黄昏色の詠使い イヴは夜明けに微笑んで』(著・細音啓)書評
先月のこと。知人から「知り合いがラノベの賞を獲った」という話を聞いた。最初、比較的歴史の浅いところの賞かと思ったら、富士見ファンタジアの佳作と聞いて仰天。それほどの賞を受賞した知人の知人(つまり赤の他人)の作品がどのようなものか興味を持ち、手に取った次第。
話のとっかかり。
この物語では『名詠式』と呼ばれる、召喚魔法のような技術が存在する。名詠式は『赤(Keinez)』『青(Ruguz)』『黄(Surisuz)』『緑(Beorc)』『白(Arzus)』の五色がある。名詠式を行うには、各色に対応した触媒(カタリスト)が必要。例えば、赤なら赤の絵具、緑ならカエル。
この名詠式を教えるエルファンド名詠学舎において、イブマリーという名の少女は「夜色名詠」という、存在しない名詠式をマスターしたいと言い続け、皆から笑われている。そんな誰からも理解されぬ少女に、カインツという少年が唯一理解を示す。と同時に、少年は達成困難とされている五色全ての名詠を、十年でマスターしてみせると宣言。
かたや存在が確立されていない夜色名詠、こなた不可能に近い虹色名詠のマスターを約束した少女と少年。かくしてこの二人の物語が始まる....と思いきや、話がいきなり十年くらい飛んで「え?」となる。
名詠式を教えるトレミア・アカデミーに通う二人の少女・クルーエル(クルル)とミオが、ネイトという黒衣の少年に出会うところからが、本当の物語の始まり。これはしてやられた。
既にカインツは20代にして虹色名詠士として著名な存在となっている一方、イブマリーは行方知れずに。そんな背景が語られる中、ネイトは「夜色名詠」という、誰も聞いたことがない名詠式をマスターしたいとクルーエルらに語る。
名詠が非常に良い。
横文字の方が何語なのかさっぱり分からんが、一編の詩としても心地良く、召喚されるモノが呼びかけに応える讃来歌としても美しい。竹岡美穂氏の、繊細なタッチで透明感のある口絵・挿絵と相まって、物語全体が芸術的なガラス細工のよう。
作者・細音啓(さざねけい)氏は自身のペンネームについて「細(ささ)やかでいいから、音色(ものがたり)を啓(かな)でてみたい」としているが、細やかと言わず、ガンガン作品を発表して欲しいなと。
ネイトをほっとけないクルーエルの母性が良い。
無目的に名詠式を学ぶクルーエルにとって、「夜色名詠士になりたい」という確固たる目的を持つネイトは、非常に眩しい存在である。だからこそクルーエルが何かとネイトのことを気にかけ、応援する姿もまた美しい存在である。母性本能をくすぐられている少女って、良いもんだ。
話の本筋はネイトとクルーエルの方が軸なんだけれど、イブマリーとカインツの方も気になる。入れ子のような構造になっていて、一粒で二度オイシイ。
てかイヴ&カイの世代の方“が”気になる。序盤に登場したキャラが成長していて、ある時は名詠を用いて活躍し、ある時は往時を懐かしんでいるのを読むにつけ、徐々に空白期間が埋まり、色々とスッキリする。
ネタバレ話。(文字色は背景色で)
やっと再会できたイブマリーとカインツが別れる段階で、アーマがやって来た時、イヴが発した「ありがとうね、色々と」が凄くイイ。キマイラ退治程度のこととしかとらえていないアーマに対し、気まずい沈黙を破ってくれて「ナイスタイミング!」という意味を含めたイヴのねぎらいの言葉が、気が利いているなぁと。
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富士見書房
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美しくて切ない
『名詠』が紡ぐ新たな物語
凄い

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コメント
意外なところで人はつながってるものなのですな。事実は小説よりもなんとやら。
なんか時代がいきなり飛ぶっていいですね。あえて売れ筋(失礼な言い方ですが)である「十代の主人公」を捨て去ったのはちょいと好感ですね。
Posted by: glass | 2007年02月20日 23:59
>glass様
済みません、ちょっと勘違いさせてしまったようですが、本筋の方の2人(ネイトとクルーエル)も、十代の主人公だったりします。
Posted by: 鈴木舟太 | 2007年02月21日 00:24