(SS)長キョン「長門有希の「たまご」」
勝手に今日輝いていたハルヒのレス:
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833 :たまご :2007/02/01(木) 00:13:36 ID:EhR1w4kX
コタツという暖房器具は、実はごく局所的にしか
その暖房効果を発揮しないという事実にどれほどの方がお気づきであろうか。
生活感という言葉とは縁遠い部屋の、しかも真冬のこの時期には、
コタツで暖めていた手も、いっぺん布団の外に出すと
冷たい部屋の空気に晒されて急激に冷却を開始される。
机の上には一組の急須と湯飲み。
冷え切って既に水と同じ温度になったほうじ茶というのは、
実はただ冷たくて渋いだけで、飲むのにはあまり適した物だとは言えない。
それでも俺は、待ち続ける時間の長さに耐えかねて手を伸ばす。
ことん、ことん、ことん、ことん。
台所に通ずるドアからは、鍋の中で湯が揺れる音が聞こえてくる。
くぐもって聞こえてくる蒸気の音は、たぶん炊飯器が立てるものだ。
冷たくて渋いお茶を飲み下しながら、温かさを思わせる台所の音に耳を済ませる。
両手をコタツの中に戻して擦りあわせながら、俺は期待と若干の不安に包まれていた。
834 :たまご :2007/02/01(木) 00:15:17 ID:EhR1w4kX
朝比奈さんのタイムトラベル騒ぎで慌しく過ぎた日々から数日が過ぎ、
バレンタインに貰ったチョコレートケーキも食べてしまった週末のある日、
俺は長門を誘って図書館の席を占めていた。
クジの不正をはじめとした、今回の事件での長門の協力に対するお礼でもあり、
朝比奈(みちる)さんに「ちゃんと図書館の埋め合わせをしてあげてくださいね」と
彼女にしてはえらく怖い顔で(それでも愛らしい表情なのだけれど)怒られた事もあり――。
そして、来月に控えているホワイトデーのお返しの、リサーチでもある。
午後1時過ぎに図書館に着いた俺たちは運良く2つ並んだソファー席を確保できたので、
とりあえず最近流行の分厚い小説本を手にどかりと座り込む。
基本的に子供向け小説なので読みやすと言えばそうなのだが、
”冴えない孤児のメガネ少年が、実は有名魔法使いの血を引いていて、魔法学校で大活躍する”
といういかにもご都合主義的な展開は、早くも俺の眠気を誘ってくれた。
眠気覚ましにと隣に顔を向けると、
ソファーの肘掛に高々とあぶなっかしく本を積み上げた長門が、
無表情ながらも楽しげにページをめくっていた。
綺麗に背筋を伸ばして座るその横顔を、しばし堪能する。
うん、魔法学校のメガネ少年よりも、目の前の宇宙人のほうが、よっぽどいい。
しばらくの間、そうやって俺は久方ぶりの平穏を楽しんでいたが、
いつしか膝の上に置いていた本の催眠効果に負けたのか――
気がつけば、『蛍の光』の流れる館内には、もう利用者はほとんど残っていなかった。
835 :たまご :2007/02/01(木) 00:17:17 ID:EhR1w4kX
図書館の玄関前で待っていると、
本の借り出しの手続きを終えた長門がとことこと歩いてくる。
どことなく嬉しげなその足取りに、
お礼と埋め合わせという目的は果たせたかなと、とりあえずは自己評価。
でも、ホワイトデーのプレゼントの参考にはならなかったな。
ふたり並んで、帰路を辿る。
一年でいちばん寒い時期の夕暮れは、歩いているだけで頬がつんと痛かった。
そうこうしているうちにいつもの待ち合わせ場所である駅前公園までたどり着き、
別れの挨拶を述べようとした、そのとき。
長門がぽつんと口を開いた。
「晩ご飯、食べていって」
836 :たまご :2007/02/01(木) 00:20:09 ID:EhR1w4kX
『お客さんだから』
手伝おうとした俺を押しとどめ、長門がドアの向こうに消えてから早40分。
急須を傾けると、濃く濁ったほうじ茶のしずくがしょぼしょぼと湯呑みに垂れ落ちた。
テレビもない、ラジオもない。あるのは分厚い洋書ばかり。
やることがなくて、ヒマだ。
隣の台所からは、まな板と包丁が触れる音が慎ましげな気配として伝わってくる。
またキャベツの千切りなのだろうか。
一定のリズムで繰り返されるそれは、お客様扱いで独りぽつんと待たされているよりも、
手伝いをさせてもらったマシなんじゃないかという気持ちを抱かせる。
キャベツの千切りだったら俺にだって出来るのに、
そういう気遣いに疎いのも、ある意味長門らしいのかな。
献立はなんだろう、またキャベツとカレーかな。
そんな事を思いながら、コタツにあたってひたすら待つ。
837 :たまご :2007/02/01(木) 00:23:17 ID:EhR1w4kX
「……待った?」
いつの間にウトウトしていたのか、ドアの開く音に伏せていた顔を上げると
長門が大きなお盆を両手に持って入って来るところだった。
「いや…。すまんな寝ちまって」
「いい」
立ち上がろうとした俺に首を振り、長門が盆を置く。
待ちに待った献立は……
予想を裏切らない山盛りキャベツの千切りに、大皿一杯のカレーライス。
匂いに覚えがあるのは、以前来た時に出されたのと同じ缶詰カレーを使っているからだろう。
ただ、あの時と違うもの。それは。
「ゆで卵、だよな。これ」
「そう」
縦半分に切られたゆで卵が、一皿あたりふたつ、ころんころんと置いてある。
カレーのルーの上で転がされているゆで卵は、
白と黄色の鮮やかな切り口がひときわ目立っていた。
「卵と食べると、カレーがまろやかになっておいしいと本に書いてあった」
「ふむ」
スプーンを手に取る。先っちょで卵を切り崩して、ルーに絡めて口元へと運ぶ。
食欲の命ずるまま食いつこうとして――こちらをじっと見つめている視線に気がついた。
その瞳がいつもよりもずっと真剣に見えるのは、俺の気のせいだろうか。
838 :たまご :2007/02/01(木) 00:25:44 ID:EhR1w4kX
「あー、ええと……。いただきます」
こくん、長門のわずかな頷きと共に、まずは一口。
ルー自体は前と変わらない。
ただ、ゆで卵の甘い味、ぽくぽくとした食感がプラスされていて、
それが全体的に、まろやかな味を醸し出している。
うん、うまい。
「うまいよ、長門」
「そう」
俺の言葉をじっと待っていたのか、
身動きひとつしなかった長門も自分のスプーンを動かし始めた。
「ゆで卵は、型崩れしやすい。
ゆで過ぎると硬くなり、黄身の色も悪くなる。
湯から上げた後で水で冷やさないと、殻が上手くむけない」
自分の皿のゆで卵をスプーンの先でほぐしながら、長門がどことなくぽつぽつと解説をしてくれる。
「切るだけ、温めるだけのものとは違って、大変」
「そうか」
「そう」
俺の相槌に答えて、長門はまたスプーンを口に運ぶ。
普段よりもスピードが遅いのは、俺の様子を気にしながら食べているせいか。
長門がちらちらこちらを窺っているのを感じながら、俺は卵のかけらをパクつく。
――まてよ。
切るだけ、温めるだけじゃない、ということは。
つまり、このゆで卵は、千切りキャベツやレトルトカレーとは、明らかに違うわけで。
もしかして俺は、長門の初めての『料理』を食っているのか?
839 :たまご :2007/02/01(木) 00:28:08 ID:EhR1w4kX
疑問に思って聞いてみると、長門はこくんと頷いた。
「バレンタインデーでケーキを作成したのが興味深かった」
ほう。そういえばここんちでケーキを作ったんだったっけな。
「料理をしてみたくなって、今日の午前中に材料を買った」
「ふうん……」
長門は自分の皿の上に視線を落とす。まだ手付かずのゆで卵の半切りがひとつ。
「リスクを最小にするために最も単純な料理をと考えていたが、
予想した以上に難しかった。もっと練習が必要だと感じた」
そこまで言って長門は言葉を切る。スプーンを置いて、俺をじっと見つめた。
「今度は、ほかのものを作る。また、食べて欲しい」
真剣そのものの顔つきでこちらを睨んでいる長門。
そのあまりの実直さに、こちらもスプーンを置いて、姿勢を正した。
「お前の料理を食わせてもらうのは確かに嬉しいけど、」
長門の体がわずかに揺れる。
手がぎゅっと強張るのが、コタツの布団の振動として伝わってくる。
840 :たまご :2007/02/01(木) 00:29:46 ID:EhR1w4kX
「……今度はふたりで一緒に作ろうぜ。そのほうが、もっと楽しいぞ」
じいっと俺を見つめる長門に笑いかける。
「いいの?」
「おう。俺だけ食わせてもらうばっかりじゃ悪いし、ふたりでやったほうが上達も早いだろ?」
そう言って俺は再びスプーンを手にする。
長門の初めての料理を載せて、口いっぱいに頬張った。
もぐもぐと口を動かしながた目を細めてみせると、
しばらく長門は首を傾げて俺を眺めていたが、やがて自分の皿へと向き直った。
「……楽しみ」
呟いた長門の唇が薄く笑ったように見えたのははたして気のせいか。
ようやくいつもの豪快な食べっぷりを発揮し始めた長門の脇で、
俺はホワイトデーのプレゼントにはにはレシピ本がか、
それともエプロンでも贈ろうかなどと考えていた。
841 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/02/01(木) 00:31:38 ID:EhR1w4kX
終わりですぽ。
842 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/02/01(木) 00:32:43 ID:A/SYXo6s
>841
読んでてニヤニヤしてしまった。長門カワユス。
キョンも優しいじゃねえかコンニャロ
原作でもこんくらいのことしてやれYO!トオモタ
843 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/02/01(木) 00:32:48 ID:xUmVE0YH
>>841
乙、そしてGJ!
個人的にはこういうのが好き
844 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/02/01(木) 00:36:24 ID:MN31dt4s
えぷろん……ハァハァ
845 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/02/01(木) 00:37:06 ID:SgRdBkUz
>>841
GJ!長門かわいいよ長門。
こういうキョンと長門のほのかなラブストーリーが原作にも欲しい。
原作のキョンがやらねばならないことは、長門を図書館に連れて行くことだ。
未だに二人きりで行っていないからな・・・
846 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/02/01(木) 00:41:41 ID:X/osMddP
>>841
GJ!和みました。
長門とキョンが2人でキッチンで立って料理をする姿が目に浮かぶよ。
明日の試験もうまく行くような気がしてきた。
847 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/02/01(木) 00:44:45 ID:ejeTZ0Bl
>>841
これは良作。
久しぶりに最後まで楽しめて読めたよ。
キョンのモノローグも違和感なく仕上がってる。
849 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/02/01(木) 01:07:14 ID:Tt+xMMkS
「お前の料理を食わせてもらうのは確かに嬉しいけど、」
長門の体がわずかに揺れる。
手がぎゅっと強張るのが、コタツの布団の振動として伝わってくる。
「……今度は長門が食べたいな。」 ガバッ ガサゴソ
「…ンッ…アン……ダメ。……古泉一樹が盗聴してる。」
850 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/02/01(木) 01:15:10 ID:MN31dt4s
むしろヤンデレハルヒが盗聴してる方向で。
でも個人的にはヤンデレはハルヒより長門のが似合ってしまうと思ってる。
851 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/02/01(木) 01:49:56 ID:n0kAwqj5
>>850
ヤンデレ長門はハルヒ以上に恐そうだな
852 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/02/01(木) 01:54:42 ID:UYJiQzN3
>>849
長門の部屋に盗聴器仕掛けるなんて、どんだけ効率の悪い情報収集だよw
それともキョンに仕掛けてあるのか?…古泉、お前……。
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(舟)
「また図書館に」→マンションで食事、の流れ方が良いですな。
カレーライスに卵は美味いよね~、さらにチーズを加えるとまろやかさアップ。ただしカロリーが高くて太りやすいのが難点だけれど。


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コメント
にやにや小説をありがとう
Posted by: Anonymous | 2007年03月24日 01:25
ゆでたまごって料理の基本だからなww
Posted by: nice boat | 2007年11月25日 23:47