2007年01月11日

(6)『パスカルの鼻は長かった』 - 「長門有希の100冊」を読む

「長門有希の100冊」No.14
 『パスカルの鼻は長かった』
 作者:小峰元


◎感想・評
 作者の小峰元(こみねはじめ)は『アルキメデスは手を汚さない』で江戸川乱歩賞を受賞し、それと同時に「青春推理小説」というジャンルを確立した人物である。
 その作者が、学研の月刊雑誌『高3コース』(のちの『大学受験Vコース』)において、一年間にわたって連載した青春推理小説が、本作『パスカルの鼻は長かった』である。本文内容が十二章から成り、各章の題名が全て「○月」で始まるのはこのため。高校時代『Vコース』や『螢雪時代』といった雑誌を好んで読んでいた身だもんで、この本、実に波長が合う。

 物語は、主人公・小峰元が年内にヒモトクことを目標にした同級生・志津子が、芸能ディレクターを騙る人物にだまされ、ヌードフィルムを撮られたことから始まる。同じクラスの友人・ホームズ(頭脳派)や、ひょんなことで知り合いとなった他校の高3生・ストリカ(肉体派)と協力し、フィルムを取り返そうとする主人公一行。しかしフィルムを取り戻すだけで済むはずの話が、殺人事件に発展し……というもの。推理小説ではあるものの、推理の要素は薄めなので、“青春”の方に重きを置いた読み方がオススメ。
 主人公達は高校3年生としての日常生活を送る一方で、非日常の事件を解決するため、毎月のように奔走する。この日常と非日常の入り乱れ方が上手く構成されており、非現実的なようでいて「こういう青春を送りたかったなぁ」と思ってしまう。できればリアル高校3年生の時に読んでみたかった。
 本作の主人公・小峰元は、俗な言い方をすると「等身大の高校3年生」である。将来への期待と不安を抱える時期を送る人物像として、共感を得やすいキャラクターとなっている。「世間の広さを知らないが故の無鉄砲さ」と「世の中の仕組みを知っているニヒリスト」という、ともすれば矛盾する側面を持ち合わせている部分が実に魅力的である。主人公を通じて、もう二度と戻ってこない「高校3年生」への憧憬を覚える。


◎『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズへの影響
・「高校生が普段の生活を送りつつ、事件を解決する」
 ハルヒシリーズで推理モノといえば「孤島症候群」「猫はどこに行った?」であるが、これはいずれも特異な状況下での推理モノである。
 この線で言えば、「消失」において、世界改変を行った犯人探しの方が近いか。本作でも、「殺人の実行犯が誰なのか?」を推理する形になっているし。

・物語の端々で学問ネタがちらつく。
 本書ではギャグ的な要素で、数学の公式や「パスカルの原理」をはじめとしたお勉強ネタが差し挟まれる。これらは大抵の場合、高校3年生ならば頭に詰め込むであろうお勉強知識である。
 ハルヒシリーズでも、ミステリーの解決手段・疑問への解説としてではあるが、「雪山症候群」での「オイラーの多面体定理」や、「陰謀」プロローグの「ベルヌーイ曲線」といった学問ネタが差し挟まれる。

・ハルヒシリーズではないが、谷川流氏の『ボクのセカイをまもるヒト』も、雑誌『電撃マ王』にて、一年間・12回にわたって連載された作品である。まぁこちらは連載期間がたまたま12ヶ月だったんだろうけれど。どんな意図があって12回だったのかのう。


◎他
 単純に小峰元の作品から一冊を選ぶなら、第一の代表作である江戸川乱歩賞受賞作『アルキメデスは手を汚さない』かなと思ったのだが、内容を知るに、こちらは高校生の暗黒面を描いた作品。本作は主人公が“いたずら小僧”的な憎め無さを持ち、青春の爽やかさが描かれている。こちらの作品が長門有希の100冊に入ったのは納得か。
 筒井康隆の作品が『バブリング創世記』なのは、いまだに不思議なんだよなぁ。

 本書が連載された時期は『高3コース』であるが、私が高3の頃は既に『Vコース』になってたなぁ。もはや遠い過去だもんではっきりと覚えていないのだが、『藤本ひとみのミーハー英雄伝』が載ってたのって、この雑誌だったっけかな。

 ネットで調べたところ、著者の作品は『アルキメデスは手を汚さない』以外は絶版となっているようである。これは意外。市場に流通している本作が何万部あるのかは知らないが、将来的に入手しづらくなるかも。まぁAmazonのユーズド情報を見たところ、まだ20冊ほどの出品があるから、供給不足になるのはまだまだ先だろうけれど。

--------------------

関連アーカイブ

「長門有希の100冊」を読む(5)『猫たちの聖夜』
「長門有希の100冊」を読む(4)『バブリング創世記』
「長門有希の100冊」を読む(3)『海がきこえる』
「長門有希の100冊」を読む(2)『たったひとつの冴えたやりかた』
「長門有希の100冊」を読む(1)『復活祭のためのレクイエム』

関連ページ
長門有希の100冊

--------------------

パスカルの鼻は長かった
小峰 元
講談社
売り上げランキング: 830500
おすすめ度の平均: 3.0
3 明るくて、ちょっぴりHなユーモア系ミステリ



コメントする

コメント投稿に関する注意事項
・当ブログでは、コメント表示にブログオーナーの承認が必要です。承認されるまでコメントは表示されませんので、しばらくお待ち下さい。
・アクセスが殺到して非常に混雑した時などに、SQLエラーが生じるケースがあります。「コメントを受け付けました。」と表示されても、コメントが記録されていない場合がある点、ご了承下さい。

●最新エントリー

  • 『海賊戦隊ゴーカイジャー』#50時点での「大いなる力」リスト
  • 『海賊戦隊ゴーカイジャー』#51(最終回)予告に、デカマスターがズバーンを装備している姿
  • #1マーベラス「それが海賊ってもんだろ」→#50マーベラス「それがスーパー戦隊ってもんだろ!」
  • 『海賊戦隊ゴーカイジャー』#50で、ゴウシ、天知博士、山崎由佳が登場したり、#2の少年が再登場したり
  • 回転寿司として出される巴マミ、美樹さやか、キュゥべえの図
  • 魔法少女まどか☆マギカ展(大阪会場)での 水橋かおりさん&野中藍さんのトークショー内容報告
  • 佐倉杏子スケールフィギュアが手に持っている多節槍をデッキブラシにしてみた
  • 鹿目まどかのドールに、暁美ほむらのキャラパンツを着用させた図
  • Amazon売れ筋情報 ライトノベル・アニゲ関連本
  • 魔法少女まどか☆マギカ展、東京会場と大阪会場の等身大フィギュアの展示比較
  • 平沢唯「ヨーロッパ仮面をつけることを強いられているんだ!」
  • 櫻井了子とフィーネ(金髪美女)が、共に終わり(「了」「fine」)を意味する名前になっている件
  • 『ジュエルペット サンシャイン』#45で、水城花音が白石御影とは兄妹であることを母親から告げられる
  • 『スマイルプリキュア!』#1における星空みゆきの自己紹介について
  • 『スマイルプリキュア!』OPのお姫様風な星空みゆきを、夢原のぞみにしてみた
  • 『スマイルプリキュア!』を30回は見ているイチロー選手
  • キュアビューティが髪の毛のせいで巨乳に見える図柄
  • 『海賊戦隊ゴーカイジャー』で、アイムはファミーユ星の復興・王家の再建は考えているのだろうか
  • 『仮面ライダーフォーゼ』ライダー部員の両親はどれくらい出てくるのかな
  • 『仮面ライダーフォーゼ』ライダー部員役者さんのライダーに変身してみたい派or別にいい派
  • Amazon売れ筋情報 アニメグッズ・トイズ
  • 『戦姫絶唱シンフォギア』#6までの描写から、立花響と小日向未来は共用で同じ下着を着用している説
  • 『戦姫絶唱シンフォギア』#6で、風鳴翼が片付けられない人でした【汚部屋】
  • 『戦姫絶唱シンフォギア』#6で、立花響がアームドギアの分のエネルギーを拳に集中してクリスに叩き込む
  • 『ギルティクラウン』#16に出てきた女の子を鈴木純にしてみた
  • 『gdgd妖精s』BD第3巻のジャケット絵は茸音コロ(仮)
  • 『gdgd妖精s』本スレ28スレ目にして「コミックバンドブレーカー」ネタの再現に成功し公式からもお祝いされる
  • 『ペルソナ4』主人公各話ステータスまとめに#18の分を更新しました
  • 落語「掛取万歳」の動画集ページをアップしました
  • Amazon売れ筋情報 コミック