2006年11月24日

(3)『海がきこえる』 - 「長門有希の100冊」を読む

「長門有希の100冊」No.99
 『海がきこえる』
 作者:氷室冴子


◎感想・評
 本書を一言で表現すると「青春しているなぁ~」。私も、この物語の1割程度でいいから、もっと濃ゆい高校生活を送れば良かったなぁと。

 本作品はアニメ化やドラマ化がなされており、作者が氷室冴子と名の知れた作家であるため、「長門有希の100冊」の中では比較的知名度が高い書籍と推測される。内容を知っている方も多いと思われるが、私自身の作品理解度を試す意味で、話の大まかな流れを記述してみる。
 主人公・杜崎拓は東京の大学に合格し、高知県から上京。拓が東京の生活になじみつつある中、武藤里伽子を主軸にした高校時代を回想。拓は里伽子と接近するも、ある事件をきっかけに疎遠となり、また親友・松野豊とケンカ別れしたままの形で高校生活を終えた。拓がしばし大学生生活を送っていると、とあるパーティー会場で里伽子と偶然再会する。2人の仲はギクシャクしているものの、徐々に融和の方向へと進む。夏休みに入ると、拓と元クラスメイトらは高知へ帰郷。拓は松野との和解を果たし、里伽子もクラスメイトとの関係を修復。拓と里伽子は、ようやく自分自身に素直になる。

 本書を読んでいると、「もっと自分に素直になれよ」と忠告したくなるほど、非常にもどかしくなる。拓は松野に遠慮して、自分が里伽子を好きであることを、あえて考えない。里伽子は里伽子で、自分の感情を押し殺しすぎ。もっとも、お互いが素直でない様子こそが、この作品の醍醐味なのだが。
 「ツンデレ」という言葉が氾濫している今日ならばともかく、10年以上前にWツンデレな作品を描いた氷室冴子は偉大だ。ツンデレなハルヒとキョンの恋愛模様が大好きな方に、是非読んで欲しい一冊。


◎『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズへの影響
・武藤里伽子の特徴・振る舞いが、涼宮ハルヒと類似する
 高校時代の主な舞台は高知県なのだが、東京から転校してきた里伽子は、この高知という世界を非常に嫌っている。高知での里伽子は、わがままで自己中心的。それでいて学業成績は非常に優秀、スポーツにも秀でており、容姿も端麗。何不自由なく楽しい生活を送れそうなものだが、里伽子は常につまらなそうにしている。
 つまらなそうにしている理由は、ハルヒのそれとは異なるものの、ここまで似ていると、ハルヒの性格のモデルになっているのではないかと思えてくる。

・杜崎拓と武藤里伽子の関係が、キョンと涼宮ハルヒの関係と類似する
 お互いが好きな相手であることを認めないものの、“まるで恋人同士”のような行動を取る。里伽子はわがままを押し通して、拓を振り回す。拓は拓で、口では文句たらたらだが、結局は里伽子の言うことに従ってしまう。この関係は、まるでキョンとハルヒを見るよう。

・物語の締め方
 東京から来た里伽子は、高知という世界を嫌っていた。しかし物語の最後、大学生になった里伽子が帰郷すると、高知という世界も悪くはないことを実感。
 高校生の頃は、自分が非常に狭い世界でしか生きていなかったものの、大学生となって広い世界を知り、広い視野を得た結果、元いた世界もそんなに悪くない、いいものだと顧みる。この辺り、キョンに説得されたハルヒが閉鎖空間から戻ってきた点とかぶる。ただしハルヒはこの段階ではまだ、元の世界も良いものだと認識してはいないが。両ヒロインとも、後になってから“帰ってきた世界”がそんなにつまらない場所ではないことに気付く辺りは類似していると言えるか。
 世界をつまらなくしている原因が、世界ではなく、自分自身であることを理解するだけで、世界は面白い方向へ進むものだ。

・松野豊→谷口、小浜裕実→阪中
 この項は若干お遊び。杜崎拓→キョン、武藤里伽子→涼宮ハルヒと来たので、他のクラスメイトをハルヒキャラに当てはめてみると、しっくりくるキャラがいる。
 拓の親友である松野は谷口ポジション。松野は里伽子に告白するも手ひどく断られる。その後、若干の紆余曲折はあるものの、松野は拓と親友であり続け、里伽子と仲良くなるよう願う辺り、谷口っぽいかなぁと。谷口ではなく、古泉一樹でもOKかなと。
 里伽子と仲が良いけれど振り回されることになる小浜は、阪中のポジション。でも大学生になった小浜は里伽子に“利用された”と思っている辺り、阪中にはこうなって欲しくないなぁと思ったのね。


◎他
 余談となるが、「ワンダリング・シャドウ」で長門有希がキョンに貸した本は、この『海がきこえる』であると思われる。
参考:「ワンダリング・シャドウ」で長門有希がキョンに貸した本は『海がきこえる』

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関連アーカイブ
「長門有希の100冊」を読む(2)『たったひとつの冴えたやりかた』
「長門有希の100冊」を読む(1)『復活祭のためのレクイエム』

関連サイト
長門有希の100冊

コメント

当時大学生で兄がアニメージュ読んでたはずなのに未読だったので、せっかくだから読んでみました。
なんとなくどこかで見たような人が随所に出てきたりしてニヤニヤしながら一気に読んでしまいました(^^ゞ

拓は朴念仁なところとかがキョンぽいですねw
里伽子はハルヒより投げやりっぽいかなぁ。事情があるにせよ「つまらないなら面白くしよう」というハルヒ的発想にたどり着いてない気がします。
・・・そういうハルヒもキョンの言葉がなかったら似たような高校生活だったのかなぁ。

>unos様
確かに、里伽子とハルヒの違いとして「自分から面白くしよう」という考え方の有無がありますね。里伽子の場合、自分の世界からの逃避を選択したけれど、キョンのキスにあたるような出来事もないまま、元の世界に戻ってしまった感もあります。

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