(2)『たったひとつの冴えたやりかた』 - 「長門有希の100冊」を読む
「長門有希の100冊」No.72
『たったひとつの冴えたやりかた』
作者:ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア(訳者:浅倉久志)

◎感想・評
読み進めている時は、未知なる宇宙への冒険心・探検心をくすぐられ、非常に楽しい作品。しかし読み終わった時は、深い絶望と喪失感に包まれた。まさかこんな救いの無い話だとは想像していなかっただけに、衝撃も大きい。と同時に、主人公の2人に対し、心地よい感動を覚える。
主人公は16歳の少女コーティー。宇宙船の操舵技術に長け、誕生日に買ってもらった宇宙船に単身乗り込み、念願の宇宙への旅を始める。その旅の途中、ひょんなことからコーティーの脳内に“イーア”という種族のエイリアン、シロベーン(愛称シル)が取り憑いてしまったことが物語の発端。
コーティー&シルは相性抜群。本来ならば孤独な宇宙旅行も、2人一緒ならば楽しいものに。この2人のやり取りが面白く、どんどんページをめくってしまう。特に、イーアという未知の生命についての情報は、これまで持っていた生命の概念の枠を取り払う、好奇心をかき立てられる内容。
実際に星に降り立ち、行方不明となっていた2人組の足取りを追うところは、未知への探索としてワクワクしながら読める。しかし探索を終えた後、シルの身に異常が発生。コーティーとシルが悲劇に見舞われることに。そしてコーティーの視点で進んでいた物語が、唐突に宇宙基地のお偉方の会話に。「一体何が起こったんだ?」と疑問が浮かぶと共に、最悪のシナリオを思い浮かべる。これまでのSFな内容に、ホラー要素が大幅に加味される。この辺りの、不安をかき立て、かつ最悪の結末を嫌でも想起させられる会話の進め方は、意地悪なほど上手い。
読み終わった時に思うのは、コーティーとシルの結末について。そして、これが本当に“たったひとつの冴えたやりかた”だったのだろうか。主人公2人への感動を覚えつつ、そう自問する。
◎『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズへの影響
・「情報生命素子」の存在
イーアという“情報生命素子”は、「ミステリックサイン」に出てきた情報生命体や、「ワンダリング・シャドウ」に出てきた珪素構造生命体共生型情報生命素子に類似する。類似するといっても、イーアの方が元ネタになるわけだが。
イーアは通常、友好的な生命体であり、取り憑いた相手に幸福感を与えるなどして、宿主に対して非常に良くしてくれる。しかし不幸な事態が発生すると、宿主に対して害を為す存在となってしまう。
一方、情報生命体は自己増殖のため、最初から宿主に対して害を為す存在であった。珪素構造生命体共生型情報生命素子についても、程度の差、および生命体が意図しなかった面はあれど、最初から宿主の犬に害を為す存在となってしまった。
谷川流氏は情報生命素子を描写するに際し、イーアが持つ友好的な面を、あえて切り捨てて描写したのかなぁと。それとも今後、地球の有機生命体に対し、最初から友好的な情報生命素子が出てきたりするのだろうか。
◎他
本書籍は短編集で、表題作だけではなく他にも二編の短編があるのだが、まだ読んでいなかったりする。三編全てを読んでから書いた方が良かったかなぁと思う一方、とりあえずは表題作について書いておきたい面があったので。
“たったひとつの冴えたやりかた”というタイトルは、非常に秀でた表題かと。そのせいか、このタイトルをまんまパロディした創作・制作作品をたまに見かける。そうした作品は、元ネタの内容をきちんと理解してパロディしているのかなぁと。まぁタイトル名のパロディをするに際し、必ず表題作を理解しなければならない決まりは無いけれどね。
谷川流氏のデビュー作は『涼宮ハルヒの憂鬱』か『学校を出よう!』のどちらかでたまに議論が為される。(私的には「両方がデビュー作」が適切かなと。)この本の作者J・ティプトリー・ジュニアも、最初期に著した短編4作品が全て採用されたため、デビュー作がはっきりしないという共通点がある。
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関連アーカイブ
・「長門有希の100冊」を読む(1)『復活祭のためのレクイエム』
関連サイト
・長門有希の100冊
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コメント
おお! 続きですね。
拝見させていただきました。
「情報生命素子」の元ネタはここにあったんですね。
面白いですねー。いやはや、お疲れ様です。
でもこの様子だと「長門有希の100冊」は実際に、
1.谷川氏が所蔵して読んだ事がある
2.谷川氏が<図書館>から借りて読んだ事がある
3.谷川氏ではなく、編集者が読んだ事がある
と推測される作品群であり、
確かに『ハルヒ』等の作品の創作に対して、
影響を与えているもののようだと仮説立ちますね。
まだまだ先は遠いようですが、
お暇な時見つけてめげずに頑張ってください。
では~。
Posted by: 夕刊 | 2006年10月15日 23:33
>夕刊様
前回に引き続き、早速の感想ありがとうございます。
人間の脳に生物が寄生するお話は枚挙に暇がありませんが、“宇宙からの未知なる存在”として人間の脳に憑依する形での共生型寄生は、寡聞に他の例を知らないので、これが元ネタになったのではないのかなと想像しております。
まだ数冊程度しか読んでいませんが、他の「長門有希の100冊」においても、いずれも「この本のこの辺がハルヒシリーズに影響がありそう」という箇所があります。「長門有希の100冊」は、ハルヒシリーズが好きな方が読めば、作品を更に楽しめるものと思います。
Posted by: 鈴木舟太 | 2006年10月16日 02:57
この本の最大の問題は作品より作者の人生のほうが
衝撃的であることだwと私は思う。
(あとがきにその一部を垣間見れます)
初めて読んだときは涙が止まりませんでした。
Posted by: あっきー | 2006年10月16日 11:57
>あっきー様
私も、ティプトリー・ジュニアの最期を知った時は、こんなドラマチックな生き様があるんだなぁと驚嘆しました。また、プロフィールを読んで「えぇ!」と驚いた点が一つありますが、ここではあえて触れません。ちょちょいと調べればすぐに分かることですが。
Posted by: 鈴木舟太 | 2006年10月17日 04:06