2006年05月25日

研究論文:長門有希の消失

研究論文:長門有希の消失

*本項目には、『涼宮ハルヒの消失』に関するネタバレが含まれています。原作未読の方は、その点を踏まえた上でご閲覧下さい。


 『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズの中で、ファンの多数が最高傑作と評する第4作目『涼宮ハルヒの消失』。(余談であるが、私もシリーズ最高傑作には『涼宮ハルヒの消失』を推す。)この作品を最高傑作たらしめる要因はいくつかある。ここではその要因の一つである、通称「消失長門」についてクローズアップする。


(1)分析

 まず最初に「消失長門」のキャラクターと人気についての分析から。
 ファンの方にとっては釈迦に説法であろうが、ここで改めて説明する。「消失長門」とは、『涼宮ハルヒの消失』のみに登場した、平時の長門有希とは異なるキャラクター性を有した、別人格の長門有希である。
 平時の長門有希は、情報統合思念体によって造り出された「対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース」であり、地球規模どころか宇宙規模での情報操作をも可能とする万能キャラクターである。その万能度の反面、感情表現は「無」と表現するほど乏しく、キョン以外の人間には感情の判別が困難な程である。
 そんな長門有希に対し、「消失長門」はというと、部員が自分一人だけの文芸部に所属する、会話が苦手な、ただの高校生。町の図書館で本の借り方が分からず困っていたところをキョンに助けられ、それ以来、キョンに対してほのかな思いを抱いている文学少女。本来の長門有希から大きくかけ離れた「普通の人」である。
 キャラクターが大きく異なる両者の共通点として、コミュニケーション能力が著しく低いことが挙げられる。平時の長門有希は、有機生命体とのコンタクト能力の欠如により。「消失長門」は、内気な性格による。理由は異なるものの、このコミュニケーション能力の低さにより、いずれの長門有希も、自身の感情をきちんと伝えられる相手はキョンだけに限定される。この「キャラクターが変わっても、頼る相手はキョン一人だけ」という一途さが、人気の要因の一つと考えられる。
 なお『涼宮ハルヒの消失』において、涼宮ハルヒ、朝比奈みくる、古泉一樹の三者についても、多少のキャラクター変化があったものの、ベース部分での変化は乏しい。ひいき目に見ても、ファンの間で別キャラ扱いされる程には至っていない。

 「消失長門」は、キャラクター自体の魅力も大きい。それに加え、平時の長門有希自身がこの「消失長門」を創造したという点が、人気に拍車をかけた。感情を全く持たないと思われていた長門有希が、実は普通の高校生となって、キョンと仲良くなれる世界を望んでいたこと。古い表現で恐縮だが「鳴かぬ蛍が身を焦がす」という言葉がピッタリである。
 そうして生み出された「消失長門」であったものの、キョンは“造りものの長門有希”を拒絶。長門有希によって創られた「消失長門」は、最後に存在を拒否される形で姿を消すことになった。この悲劇的な末路もまた、人気の要因と言えるだろう。



(2)“その後”

 次に、「消失長門」の“その後”について。
 『涼宮ハルヒの消失』において「消失長門」を確認できる最後のシーンは、キョンが緊急脱出プログラムを作動させて、3年前の7月7日にタイムスリップする直前である。その後、「消失長門」の存在する世界は上書きされたため、現在進行中の世界にいるキョンが、「消失長門」の存在する世界へ行くことは実質不可能となってしまった。よって、キョンの一人称で進行する原作の中において、今後「消失長門」が描かれる可能性は、限りなく低い。
 「消失長門」はどうなってしまったのか? という疑問は、上述の通り作中で描かれる可能性が低いだけに、読み手があれこれと想像することになる。そこで、考えられる「消失長門」の“その後”を、5パターンほど推測してみた。


1.キョンが緊急脱出プログラムを作動させた段階で消失

 可能性が最も高いのはこの線である。
 もともと長門有希が改変した世界だけに、キョンが緊急脱出プログラムを作動させるのと同時に、世界は消失。「消失長門」も消失。消失時は12月20日の放課後。
 夢も希望も無いが、現実は非情である。


2.キョンが意識不明の状態から回復した段階で消失→キョンが存在しない世界

 世界の辻褄が元通りになり、長門有希が世界の修正をする必要が無くなるのは、キョンが意識不明の状態から回復した時点からである。つまり、キョンが意識を回復するまでの世界は、上書きをする必要があったと考えられる。
 キョンが緊急脱出プログラムを作動させた日時から、キョンの意識が回復する日時まで、約1日の猶予がある。キョンが突然姿を消してから1日の間、「消失長門」は何を思って過ごしたのだろうか。
 キョンの意識が回復すると同時に、「消失長門」も消失。消失時は12月21日の午後5時過ぎ。


3.キョンが意識不明の状態から回復した段階で消失→キョンが存在する世界

 世界の辻褄が元通りになり、長門有希が(以下略)
 しかし緊急脱出プログラムを作動させたはずのキョンは、どういうわけか改変された世界にも姿を留める。暴走状態から回復した長門有希が、残り約1日で消える「消失長門」に対し、最後のプレゼントとしてキョンの存在をもたらしたのか。
 キョンの意識が回復すると同時に、「消失長門」も消失。消失時は12月21日の午後5時過ぎ。


4.別の世界で今も生きている→キョンが存在しない世界

 キョンが緊急脱出プログラムを作動させた結果、キョンは長門有希が改変した世界から脱出。長門有希により改変された世界が再修正されると同時に、「消失長門」のいる世界は上書きされた。しかしそれは平行世界での上書きで実は完全には消えておらず、立体交差的な世界として存在を継続。
 ただしキョンは脱出してしまったため、「消失長門」のいる世界にはキョンが存在しないことに。「消失長門」は生き続けているが、大切なあの人とは二度と会えないままに。


5.別の世界で今も生きている→キョンが存在する世界

 アメリカ映画にありがちな、全面的ハッピーエンド。
 キョンが緊急脱出プログラムを作動させた結果、キョンは元の世界へ。しかし、キョンは長門有希が改変した世界にも存在を留める。長門有希の世界は世界の再改変・修正により上書きされたものの、立体交差的な世界として存在。「消失長門」はキョンとの新しい世界を歩み始める。



 以上、大抵は悲劇的な結末。「消失長門」はつくづく、どうやっても報われない、悲劇的な最期を迎えるキャラクターである。「悲劇的だからこそ良い」と見る向きも、否定はできないが。
 5に関してはハッピーエンドだが、あまりにも安直。上書きされた世界が存続した上、キョンも存在し続けているってのは、自分の推論ながら、あまりにもご都合主義である。できることなら、「消失長門」にも幸せになっていて欲しいところではあるが。ちなみに1~5の順番は、「可能性の高い順」。5のハッピーエンドは、一番確率の低いルートであると認識している。
 あと一つ、長門有希が改変した世界は、実は意識不明のキョンが夢の中で見た出来事。夢を見せたのは長門有希。という夢オチも考えたが、改変世界を「夢」で片付けるのもどうかということで、これはパターンに加えず。(なお夢オチについては、『涼宮ハルヒの陰謀』で、古泉一樹が似たような内容を語っている。)

コメント

素晴らしい 実に素晴らしい

見事な考察に感服しました

折角なので私の5番目の可能性について(笑ってやってください)

ENTERキーを押し間違えた異世界
宇宙人も未来人も超能力者も居ない異世界
ハルヒに変な能力がない異世界
消失長戸が存在する異世界
しかし 平行して現実?世界も存在する
多元的パラレルワールド
(この方が私は楽しい)

>香具師A様
ということは、消失長門は異世界人になるわけですね。元の世界でハルヒが異世界人を呼びだして....という展開も考えられますね。

原作未読でしたが、シリーズ最高ときき消失を読みました。
私なりに考えまするに、消失長門の性格は、本来の長門に芽生え始めた感情の成長形、ではないかと思うのであります。
消失長門は存在を否定されてしまうわけですが、消失世界の塗り替えによって消失長門が本来の長門に吸収される、というか帰結すると考えたいデス。

消失長門が部室で「ここで会話するのは始めて」的な発言をしますが、あれは図書館での出会い(改竄された記憶)を踏まえての発言であると同時に「改変された世界での会話ははじめてだよ」という意味合いを含んでいると思えてきたりします。
消失長門は実は記憶を多少なりとも残しているのではないか。と考えると、挿し絵の差異についても、入部を勧める場面や、マンションでの引き止める場面は、言わば長門勝負の時、だから外した。と考えると辻褄が合うような・・・(^ω^;)
ここぞという瞬間には眼鏡を外すのデス!(笑)
まぁ、入部届けは白紙のまま却ってきましたが・・・(´・ω・、)カワイソウ
私なりの結論:長門に幸せになってほしい(笑)

>カリン様
長門有希に関しては、消失長門を含めて、色々な解釈で読むことができますよね。消失長門が否定されたわけですから、私も今の長門有希には幸せになって欲しいところです。

別のサイトで消失長門は単なる消去法ではないかと言うものがあります。ハルヒは「元気溌剌爆発娘」みくるは「天然萌え娘」となると残ったのは消失長門あたりになるということです。しかし、キョンが朝比奈さんあたりに何かの好意を持っていることは、何でも分かりそうな長門にも分かっていたのではないか。キャラをかぶせてはみくるには勝てないと思ったからなのか。もしかしたら、キョンのそれぞれのSOS団メンバーに対する愛情の違いを知っていたのでは?もしそうだとしたら、長門は朝比奈さんのようにかわいがってもらいたいのではなく、ただ一緒にいたいという一途な願望の現われなのではと思います。

ここで議論している事とは多少意味が違いますが、興味深い考察をしているSSがありました。(面白くもあったのですが、まあそれはともかく)

http://haluhi9000.h.fc2.com/45n.html
45aから45pまであり、a~hが消失を長門視点で描いた話、i~kが消失長門からの視点。そしてn~pはその後ろに繋がる話です。
ちなみに周辺には18禁のSSがあり、この作品もb辺りで軽くそういう展開があります。ご注意下さい。

キョンが去ったはずの消失世界のその後の話について、だけでなく、
「長門の改変できる範囲は1年なので、消失の世界でも3年以上前は長門は存在しなかったはず」
「長門はああいう性格の少女として振舞うように改変されているが、本当の人間に生まれ変わったのではないのではないか」
などの点は、目から鱗が落ちました。
いや他にも気付いてた人は大勢いたのでしょうけど。

(この投稿が、内容的によろしくないと思われた場合は削除してください)

思ったことをひとつだけ。
これはもしかして谷川流さんのほかの
著者に対してのメッセージなのでは?
キャラクターは自分の思い道理になりはする。
それならば、自分のキャラクターには幸せ
にすればいいではないか。何故、不幸な境遇や、つらい局面を与えなければならないのか
。という感じで、つらい局面の表現を嫌う流さんらしい考えではないでしょうか?

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